照りつける太陽と熱を吸収するだけのアスファルト
窓の外は南国かというような風景。
目の上がチカチカするような、
太陽が南中を指す時刻。
ハタリとあおがれた団扇。
涼しげな金魚の絵柄が可愛らしい。
エドワードはふにゃりと冷たいフローリングの床に身体を投げ出した。
赤い金魚が泳いでる
以前、その腕と足に銀色が鈍く光る機械鎧がついていたころ。
炎天下の中で、覆うモノもなく出歩く事は、
自殺行為であった。
金属は熱を膨張させ、人体のように外部に発散することも出来ず、
内部にこもったままとなる。
機械鎧はそのまま神経につながれているので、
肩の付け根と、膝からジクリジクリと熱は身体へと浸透していくのだ。
ゆっくりと茹でられている気分だったろうか。
昨日の夕食に軽く湯がいたアスパラガスのサラダを作ったが、
ちょうどそのアスパラの気分だといえるかもしれない。
肌の露出は夏でなくとも避けていたとはいえ、
真夏にも上から何かを羽織らなければならないのは、
見ている側としても暑かったろうと思う。
もちろん、着ていた自分も暑かった。
それ以上に、夏の直接の日差しは命とりだったのだけれど。
そんな機械鎧を取り外す事ができた。
取り外してしまうことに、少しも躊躇しなかったと言えば嘘になる。
それは罪の証であったし、自分が背負うのが当然だと思えた。
忘れるなんて事、ありはしないけれど、
それでも残しておくべきなのではないかと。
『姉さん。一緒に元の身体に戻ろうね』
弟は、何度となくそう言い聞かせるように鎧の首を傾げて言った。
それが半ば呪文のように繰り返されていた事とは言っても、
そう願ってくれた事は嬉しかったし、
この腕を見ることで、弟がその度心を痛めることがあるとしたなら、
それは避けたかった。
弟にはこの先の不幸に余りあるような不幸を背負わせてしまって、
過ごすこれからの道に、少しの煩わしさも感じさせたくなかった。
もしも、この腕が生身にするなんて事で、
弟が心苦しさなんてものを感じずに過ごせるなら、それでいいと。
そして、心のどこかでやはり自分もまた、
綺麗な白い腕が両腕揃って持ちえるならば、
もし、それが許されるとするならば、
愛しい人を抱きしめてみたいと思った。
寒い日は、氷のように冷たくなってしまう腕では、
貴方と手を繋いで歩くこともできない。
暑い日は、煮立つ銀のように熱くなってしまう腕では、
貴方と手を繋いで歩くこともできない。
冷たい腕を壊れ物のように撫で、
キスを降らす貴方に。
体温のある、感覚のある、
そんな腕で触れて見たかった。
そして。
ハタリとあおぐ扇の向こうに、
なんと愛しい存在がいるのだろう。
この暖かな存在を、
傷つける事無く腕に抱いて、
ミルクの香りとマシュマロのようなその肌を感じることが出来て。
暑い日に団扇を取り出して、ハタリハタリと風を贈る。
腕の動きに合わせて、フワリと風が生まれ、
柔らかな金色の髪を撫ぜる。
この風は、暑さに弱い自分のために夫が贈ってくれていた風。
滑らかな動きをする自分の右腕は、
動かしてもカチャリという金属音を立てることはなく。
お昼寝を続ける娘の妨げにはならない。
可愛らしい金魚がそよぐ度に、
あおいでいる夫が微笑ましく思い出される。
それは司令部の一室であったり、
暑さに参って休んでいた仮眠室であったり、
ロイの自宅であったり。
『寝ていていいよ』と優しく笑って、
自分だって暑いだろうに、こちらに風を送り続けてくれた。
冷房にはない柔らかな風に誘われて、
愛しい人の空気を感じながら、ウトウトと瞳を閉じていたあの時。
暑い日に見てしまう悪夢も魘される事もなく、
深い眠りにつけていた事を思い出す。
どんな夢を見ているのだろう。
暑さに魘されるなんて悲しいことは無いように。
お母さんがお父さんにしてもらっていたように、
可愛いお前たちがどうか安心して眠れますように。
暑い日がどうか穏やかに過ごせますように。