いないいないばぁ。
そんな言葉で全て隠して、
また出会えればいいのにね。
いなくって。
さびしくて。
それでもまた会える。
あのドキドキした遊びのように。
いなくなってしまった貴方をずっと探しています。
「姉さん。どっちに似てるだろうね」
「ははっどっちでもいいけど・・・黒髪がいいな」
まだ膨らんでもいない腹を撫でながら、
弟は無邪気に笑う。
鎧を通したそんな声ではなくて、
青年に成長したその声で。
「黒髪か・・・うん。可愛いだろうね」
「あぁ、優性なのは金色でなくて黒だろうからな」
あの全て包み込むような色なら嬉しい。
父親は金色がいいと言っていたような気がするけれど。
「親ばかになるんだろうねぇ」
「ロイだろ?そんな感じだよなっ!!」
ここは一つ気をつけなければならない。
可愛がるあまりに甘やかすのはその子のためにならないのだ。
「えっ?」
「うん?」
そう言いながらガッツポーズを作っていたら、
弟がきょとんとこちらを向いた。
自分の金色よりも幾らかくすんだその毛色と
同色の金の瞳は、腹の上に手を置いたままで今度はくすくすと笑ってみせた。
「なっなんだよ!!」
「確かに・・・義兄さんもだけど。
姉さんも親ばかになりそうだなって・・・」
言いながらもまだ笑っているものだから、
コツンと頭を叩くと、「ひどいやっ」と対して痛くないはずなのに、
叩かれた場所を撫でるような仕草をしていた。
「どんなことして遊んであげようか・・・今から楽しみだね」
拗ねたようにしていたくせに、
それでも弟から言葉を発してくれたので、どこか安心する。
姉というのはそういう風にできているものなのだろう。
そして、これから母になるのだ。
この子がいてくれるから。
「そうだなぁ・・・何してたっけ」
「姉さんはひたすら本ばっかり読んでたから・・・。
子どもには本ばっかり読ませちゃだめだからね」
「・・・分かってるよ」
うぅむ。と2人で考えてみる。
結局、本ばかり読んでいたのは弟も同じなのだ。
「あっ!!いないいないばぁ!
そうだよ。姉さん。」
呪文のようにそう唱えながら、
目の前でその格好を繰り返す。
両手で自分の顔を隠しては、
「いないいない」
顔から手を離して、
「ばぁ!」
まだ子どもなど生まれてもいないのに。
弟は妊婦を面前にして尚も繰り返す。
その行為に、
今度は自分が可笑しくなって。
なんだよ。
お前だってずいぶんな「叔父さんばか」になるんじゃないか?
そうだな。
覚えているよ。
母さんが顔を隠して、
「いないいない」
それでも「ばぁ!」と脅かすように現れて。
自分たちはきゃきゃとその遊びに喜んだ。
隠されたもの。
見つけられたもの。
無くしたくないものを。
取り戻したくて。
私は認めたくなくて、悲しみたくはなくて。
全てが嘘であったらいいのに。
でも、あの人の。
私のとても大切なあの人の声に一つも嘘の音などなくて。
いつも嫌味なくらいにポーカーフェイスなのだから、
今も何も無いような顔をしてくれればいいのに、
なぜそんなにも苦しそうなの。
いなくなる事を悲しむなんて、もうたくさん。
私はいつも手放してばかり。
こんなにも大切なものなのに。
いないいないばぁ。
そんな言葉で全て隠して、
また出会えればいいのにね。
いなくって。
さびしくて。
それでもまた会える。
あのドキドキした遊びのように。
いなくなってしまった貴方をずっと探しています。