びっくりさせましょう

 

 

 

 

 

 

「だってさぁ、あいついっつも・・・」

 

「だからってねぇ、そんなの突然言い出したらびっくりするに決まってるじゃない」

 

 

 

姉弟会議は今日も賑やかだ。

議題は姉の持ち出した1つ。(いつもくだらない内容を姉が真面目に討論するこの会議)

『どうしたら、あいつ(ここでいう所のロイ・マスタング大佐)をびっくりさせられるか』である。

 

どうしてこんな事を、真面目に討論せざるを得ないかといえば、

単に姉が直線的な思考の持ち主である事と、娯楽と言える娯楽を姉弟が持ちえていないからである。

根っからの研究者気質の姉弟は、意見をぶつけ合い、そして結論を導き出す事を「楽しい」と感じていた。

それ故に、極たまに他愛の無い事を「あぁだ」「こうだ」と話し合う。

これを俗に「姉弟会議」と呼んでいた。

 

 

姉であるエドワード・エルリックは、どういう経緯であったのかは話さなかったものの、

上司であるロイ・マスタング大佐と「恋人同士」といえる間柄である事を僕に打ち明けていた。

それはもう照れて照れて、何を言っているのか解読するのに、

余程難しい錬金術師の解読よりも骨を折ったが。

 

姉を奪われてしまったような、物悲しさはあるものの、

それでも姉が「大切にする」人が出来たということは、喜ぶべき事であった。

所詮、姉の幸せが幸せという大変できた弟であったのである。

 

 

 

姉の出した結論は、いつも言わない「好き」という気持ちを打ち明ければ、

それだけでロイはびっくりするのではないかということだった。

 

アルフォンスももちろん、そうだと思う。

どうしてこんなに歳の離れた姉を大切にしているのか疑問に思うほどに、

大佐は姉を大切にしていると思う。

言葉に出して認めるのが恥ずかしいほどに、「愛している」と目が語っているのだ・・・。

恥ずかしいけれど。

 

 

それでも、姉はまだまだ子どもだし、愛を囁きあうなんて芸当は到底できないだろう。

2人っきりになることでさえ、真っ赤になって「あぁ」とか「うぅ」とか言っているに決まっている。

(後で、こっそり姉に探りを入れているし、長年一緒に居るのだからそれくらいは想像がつく)

 

 

 

「でもねぇ、姉さん。

 びっくりさせるのは成功すると思うけど、それを姉さんは大佐に言えるの?」

 

「うっ・・・・言ってやろうじゃねぇの!!!」

 

「いや、挑戦の意味が変わってるからね。」

 

 

握りこぶし片手に、立ち上がり、「言ってやるさぁ!!」と意気込む姉。

 

 

うぅん。それって僕にしてみたら、あまり嬉しくないんだよね。

 

だってさ。

それ言ったところで、大佐はびっくりするだろうけど結局は喜ばすだけだろうし。

姉さんが、言えるかどうかはさて置いて、言ったら姉さんが危険な目にあうよねぇ・・・。

結構、大佐って我慢してるっていうか、姉さんから言ってもらうの待ってるっていうか。

 

 

 

「大体、何でびっくりさせる必要があるの?」

 

 

カシャリと小首を傾げて、可愛らしい弟の声で聞く。

既に姉の顔は真っ赤で、もうすごく可愛らしい。

・・・・ちょっと気をつけてないと、「女の子」ってバレバレかも。

 

 

「あいつさぁ・・・・いつも余裕なんだよな。

 まぁ、今まで色んな人と付き合ってるの知ってるし、分かってるんだけど。

 なんか・・・・悔しいじゃんか」

 

 

確かに、大佐は女好きで、あまりいい噂を聞かないけれど。

最近はまったく違うって事を聞いた。

 

姉さんを大佐の執務室に残して、退室したハボック少尉と休憩しに行った時。

 

 

ハボック少尉は「吸ってもいいか?」と聞いて、

(僕は鎧で、そんなの前々感じ無いってことを知っているけど、聞いてくれるので嬉しいと思う)

プカリと煙のドーナッツを作りながら、ぽつりとハボック少尉が言った。

 

「なぁ、アルは大佐と大将の付き合いってやつを認めてるんか?」

 

僕はちょっとだけ困ったけれど、まぁ言ってもいいかと思ったので、素直に言った。

 

 

「姉さんは、僕ばかり見ていたらきっと参ってしまうから。

 それが防げるなら、僕はそれでいいと思ったんです」

 

 

姉さんは一直線な人だから。

優しさも厳しさもとても真っ直ぐだから。

僕を母さんの練成に巻き込んでしまった事を本当に後悔して、

僕に対して、すまなく思っているんだ。

 

それが姉さんをずっと縛ってしまっていて。

だから、いつか姉さんが壊れてしまうんじゃないかとずっと心配だった。

 

姉さんが僕以外の大切な人を見つけたことは、

やっぱり少し寂しいと思うけれど、それはとてもいいことだと思う。

 

 

「まぁ・・・な。でも、大佐だぜ?」

 

 

うっわ。この人(ハボック少尉)、上司なのにそんな事言っていいんだろうか。

・・・・まぁ、聞かれていないなら、いいのか。

 

少尉の言いたい事は、「大切な人」が「大佐」であることがいいのか?と言うことだろう。

 

「やっぱり、大佐って女の人をあまり大切にしないのでしょうか」

 

 

モテる事が悪い事だとは思わない。

好きになってもらえるのは、やっぱり良い事だと思う。

でも、それが長続きしないっていうのは、問題なような気がする。

それを姉にも続けるなら、僕はやっぱり黙ってはいられないと思うのだ。

 

 

「・・・・・そういや、最近は全くそういう話題を聞かないな」

 

「え?そうなんですか?」

 

 

ちょっと驚いた。

 

 

「う〜ん・・・そうだなぁ。2カ月ぐらい前からか?」

 

「あっ・・・・姉さんと付き合い始めたぐらい?」

 

 

って、騙されてはならないのは、

姉さんが好きだと思っていた時も、他の人を相手にしていたかも知れないということで。

告白して受け入れられたから、回りの縁を切ったとも考えられる訳で。

・・・・・素直じゃないのかなぁ僕。

 

 

「アル・・・・複雑な顔してるなぁ」

 

プカリと浮かぶドーナッツ。

鎧の顔が変るわけないのに、ハボック少尉は苦笑しながらこちらを覗きこんだ。

 

 

「まぁ、大佐がどれだけ大将を大切にしてるかなんて図れるもんじゃないけどさ。

 ・・・・少なくとも、あの顔は信じてやっていいかもな」

 

 

あの顔。

蕩けそうな甘い顔。

すごく優しい顔で、目で大佐は姉のことを見る。

それはもう恥ずかしいほど。

 

 

 

 

「姉さん、はっきり言っておくけど・・・・。

 大佐は姉さんしか見えてないから、そんなことしなくても大丈夫だよ」

 

 

「おまっ//////!!よくそういう恥ずかしいことを!!!!」

 

 

あぁ・・・・可愛いなぁもう。

こんな素直な人はそういないだろうなぁ。

 

 

 

きっと大佐をびっくりさせたいなら、

「俺、あんたのこと嫌いになった」とか「もう終わりにしよう」とか言えば確実だけど。

そんな事、姉は絶対にいえないだろうし。

言ったとして、あの大佐が姉を手放すなんて事はないだろうし。

 

いらない騒動なんていらないし。

 

 

まぁ、こんなのんびりした会話を楽しめたなら、

それでいい気もしてきた。

姉さんの可愛い顔も見れたし。

 

こういうのは、弟の特権なんだろうなぁ。

 

ロイエド子