僕の位置は絶対。

だって、変る事なんてこの先あるはずがない。

 

例えば、世界が崩壊しても。

 

明日の朝に記憶が無くなったとしても。

 

今この時に大嫌いだと言ったとしても。

(そんな事はありえないけれど)

 

 

それでも、決して変る事がない。

 

 

 

この姿は、大切な人が取り戻してくれた。

 

少しくすんだ金色の髪も。

暖かい体も。

風がくすぐったく感じられる感覚も。

 

そして、この。

 

体の中心部でドクンドクンと脈打つ心臓と

足の先から脳の隅までを巡る血液も。

 

全てが貴女と僕を繋いでいる。

 

 

 

 

「ねぇ、姉さん。」

「うん?」

 

パラリと本のページを捲りながら、

姉は小さく返事をする。

 

姉はとても集中してしまう性質で、

一切の音を切り離してしまう癖があった。

 

それでも、自分の声だけは、

一度だって蔑ろにしたことはない。

 

それは自慢してしまえる位に限られた人で。

姉さんの旦那になるあの人でさえ、

最初の頃はよくそれで拗ねていたのを僕は知っている。

 

今は、当然のようにその声にも反応する姉を

僕は寂しく思っているのだけれど。

 

いつも知識に貪欲だった姉は、

古ぼけた文献を夜通し相手にしていた。

 

決して休息がいらない体ではないというのに。

 

まるで眠ること、食べること、

痛みを感じる事すら罪であるかのように、

それらを恐がっていた。

 

 

それでも、今、姉さんが読んでいるのは、

難解な暗号が書かれた錬金術の本ではなく、

人体の不思議について書かれている本でもない。

 

 

夕食の献立や、日用雑貨の通販記事が載っているような、

大衆雑誌。

 

「おっこれなら冷蔵庫にあるもので作れるな」

なんて言いながら、嬉しそうに読んでいく。

 

結婚式まであと少し。

その間を故郷のリゼンブールで過ごすように提案したのは、

マスタング大佐だった。

 

もうすぐ准将になるらしい。

 

 

村の人たちに挨拶をして、

結婚の報告をして、

そしたら、当然のように「二人とも居なくなるのは寂しいね」と言われる。

その度に、僕はここに残りますよと伝えると、

「一緒に行かなくていいのかい?」と逆に心配されてしまった。

 

村人のほぼ全員にそんな事を言われるものだから、

最後に会った駅長さんには、

「僕は、残るんですけど」と前置きをしてから結婚の話をした。

 

二人で居るのが当然で。

それは、僕もそう思っていたことで。

 

でも、ずっと一緒にいられるはずもなくて。

そんな事は、とっくに分かっていて。

でも、理解することは結構難しかった。

 

 

少しだけ、置いていかれた気分。

幸せになってくれるのは本当に嬉しいのだけれど、

どこか、取られたように思ってしまって、

なんだか、寂しい。

 

 

錬金術の文献から、夕飯の献立に変って、

聞こえる声が増えていって、

三つ編みだった髪をフワリと背中に流して、

そして、とても幸せそうに笑うものだから。

 

 

ねぇ、姉さん。

 

僕は、貴女の弟で。

それは一生変ることがない。

 

そのなんと誇らしいこと。

そのなんと嬉しいこと。

 

貴女と同じ血がこの体に流れているならば、

きっと幸せになれる気がする。

 

だって、貴女の弟なのだから。

 

貴女に大切な人が出来て、

すこし寂しいけれど。

 

 

 

僕の位置は絶対。

だって、変る事なんてこの先あるはずがない。

 

例えば、世界が崩壊しても。

 

明日の朝に記憶が無くなったとしても。

 

今この時に大嫌いだと言ったとしても。

(そんな事はありえないけれど)

 

 

それでも、決して変る事がない。

 

 

僕が貴女の弟だということは。

ロイエド子

僕の位置