まず、牛乳とたまごを混ぜて

 

火にかけ、沸騰する前にゼラチンを溶かして

 

こし機でこして

 

バニラエッセンスを少々。

 

生クリームを入れて

 

少量のレモン汁を入れれば完成。

 

 

さぁ、出来たのは?

 

 

 

フンフンと鼻歌交じりに軽快に口ずさむ。

その歌が何なのかは分からない、

もしかすると、自作のものなのかも知れない。

 

ホカホカとした陽気に、今日は休日。

かといって洗濯物はすでに終わってしまって、

朝食の片付けも終了。

 

だったら、書斎の片付けでも・・・と思ったが、

3日前に妻が書斎を使った時に、

文献を種類別に戻しておいたよと言っていたので、

片付ける必要はなくなってしまった。

 

 

食器を片付け終わったというのに、

妻はお気に入りの赤いエプロンをそのままに、

キッチンから出て行こうとしない。

 

リビングのソファーに深く腰掛けるも、

腕の中に抱きたい存在は別の場所にいる。

 

 

(何をしているのだろう・・・)

 

気になって、妻のいるキッチンを覗き込む。

そこには白を基調とした器具が並び、

心持ちその設置は基準よりも小さい。

 

それは、可愛らしい妻のために用意した特注品であるのだが、

それを気付かれてしまえば、怒られるのかもしれない。

すでに気付いている可能性もあるのだが。

 

 

「エディ?何をしているのだい?」

 

クルリとエプロンを反して、

こちらを振り向く。

 

その手には彼女の天敵・・・牛乳。

 

嬉々としてそれを持っている彼女は珍しい。

というよりも、それ自体がここにあることも珍しい。

 

「あぁ、おやつを作っておこうかと思って」

 

軽量カップにこぽこぽとそれを移しながら、

妻は答えた。

 

「おやつ?」

「うん、レモンババロアだって。隣のおばさんにレシピを教えてもらったんだ!」

 

(あぁ、それで牛乳)

 

妻は、それ自体を飲むことには極度の嫌悪を示すくせに、

その加工品にはそれ程抵抗を持っていないようだ。

 

アイスもプリンも、チーズも大丈夫なのだ。

どこに違いがあるのか、少々理解不能ではあるのだが。

 

 

「今から作らないと出来ないものなのかい?」

 

「うぅ〜んっと・・・難しくはないけど、

 冷やした方が美味いっていってたから」

 

 

 

まず、牛乳とたまごを混ぜて

 

火にかけ、沸騰する前にゼラチンを溶かして

 

こし機でこして

 

バニラエッセンスを少々。

 

生クリームを入れて

 

少量のレモン汁を入れれば完成。

 

 

「手伝うことは?」

 

「えっ何!手伝ってくれんの?」

 

 

ぱっと顔を向けたその顔は・・・とてもいい。

可愛らしいし、もう。

 

「じゃあ、こし機持っておいて、動くから」

「了解」

 

火にかけた少し小さい鍋を傾けて、

こし機を通ったモノが下のボウルに落ちていく。

 

トロトロとして甘い香りが漂ってくる。

 

手の中のこし機が動かないように気を使っていると、

横でくすくすと妻が笑った。

 

「なんだい?」

 

「えっ・・・真剣だなって・・・」

 

急に声をかけた事で、その笑い声は止まってしまい、

きょとんとして、こちらの問いの答えを探していた。

 

「それは、そうだよ。エディに頼まれたのだからね」

 

「そっか・・・」

 

「そうだよ」

 

「へへへっ・・・なんか、すごく嬉しい」

 

 

こんな休日もいいと思う。

幸せそうに笑ってくれる大切な人と、

一緒に過ごす暖かい時間。

 

 

「あっ!型に入れる時は、型を水で濡らして置くんだって!」

 

「わっとっとと」

 

最終段階でぼやっとしていたら、

手元のゼリー型が揺れた。

 

入れる寸前だった原液を溢さない様にボウルに戻す。

 

手におたまを持った妻は、

レシピを反対の手に持ちながら、注意を促す。

 

「水で?」

 

「うん・・・っと、型から外す時に役立つんだって」

 

 

うんうんと頷き、

用意してあったゼリー型を湿らせる。

 

・・・にしても、多い気がするのだが。

ゼリー型。

 

今にして思えば、原液もたっぷりと用意されていた。

 

 

「・・・少し多すぎやしないかい?」

 

「残したら、大変だろ?」

 

「・・・?多く作ったら、残るんじゃないのかい」

 

「ババロアでなくって・・・アレ」

 

 

おたまで液を型に流しながら、妻は器用に反対側を指差した。

そこには。

 

すでに洗われて、反対に乾かすように置かれている、

・・・・牛乳パック。

 

 

うんうん。

資源は大切に・・・って。

 

「なっエディ!!一本まるまる使ったのかい!!」

 

「残っても飲めないもん」

 

 

・・・もんって。

いや、可愛いのだけれど。

 

 

 

まず、牛乳とたまごを混ぜて

 

火にかけ、沸騰する前にゼラチンを溶かして

 

こし機でこして

 

バニラエッセンスを少々。

 

生クリームを入れて

 

少量のレモン汁を入れれば完成。

 

 

出来たのは?

 

 

牛乳を一本使って出来た、大量のババロア。

 

 

美味しいその手作りババロアは、

レシピを教えてくれたお隣さんとその周辺の方々に、

大変、喜ばれた。

 

もちろん夫婦も美味しく食べたが、

牛乳は小さなパックで購入しようという教訓を残した。

ロイエド子

牛乳の召し上がり方。