ルンたんルンたん

 

横を歩く妻の様子を言葉に出せばそんな感じ?

 

 

色白の肌はすべらかで、流れる金色の髪は絹糸の様。

肩には薄紅色のショールがあり、金色を映えさせた。

ふわりと歩く度にスカートは揺れ、可愛らしい足がぴょこぴょこと覗く。

 

こちらは軍服であるから、2人の様子は周りにはどのように映っているだろう。

まさか誘拐犯には間違えられる事はないだろうが。

 

それでも、横の妻はニコニコと随分楽しそうな様子で、

繋いだ手を恥ずかしがりもせず、時折こちらに顔を向ける。

言えばぷぅと頬を膨らませて怒るだろうが、

歳の割りに成長が見られない妻はぐいと首を反らしてこちらの瞳を覗かなければならない。

そんな様子も酷く可愛らしいので、言う事はないのだが。

 

ここ中央では、すでに顔を知られているのだから、

もしかしなくとも気付かない者はいないのかも知れない。

自分が若く地位を上げた焔の錬金術師であり、その妻はとても幼い容姿をしている事を。

 

さすがに彼女が噂に広まっている最年少国家錬金術師の鋼のエルリック兄弟だとは、

思ってはいないだろうが。

(姉だという事は、何故か今でも知られていないらしい。)

 

結婚式は大総統をはじめとする軍人が多く参列していた。

大々的に報じられた2人の結婚は、多少の波紋とともに認知された。

自分としても若い妻であることは十分承知しているのだから、

今更他人にどう言われようと構わないと思う。

 

 

それから一年。

妻の妊娠が分かり、守る者が増えるという期待と不安。

それでも、彼女を愛しいと思う気持ちは日に日に強まるばかりで、

溢れてくる幸せというものを感じている。

 

 

定期健診と半休が重なったため、

今日は2人で産婦人科を訪ねている途中である。

午後から出勤という理由から軍服ではあるが、

妻は2人で検診という事が余程嬉しいようだ。

 

・・・実を言えば、自分もかなり嬉しい。

父親となる自分は、実感として「子ども」というものをあまり理解できない。

もちろん、妻のお腹にいる我が子を愛しいと思う気持ちはあるが、

それを理解する事と、知っている事は別だと思う。

 

そんな事を一度、部下と話していたら、

「錬金術師はそんなもんなんですかねぇ」と何やら気の抜けた返事が返ってきた。

それが科学者からの発言かどうかは定かではないが、

概して父親というものはそうなのではないかとも思う。

その辺を親友と語ってみたかったと思うが、

あいつの場合話がとても長くなりそうであるし、

「そんなことあるか!」と親バカ満載なコメントすら返してきそうなので、

やはり語るのは諦めよう。

 

 

「なぁ、ロイ」

「うん?」

「今日は見えるかな?」

「どうだろうね。見えると嬉しいのだが」

 

今日は検診日。

どうやらエコーというものがあって、

胎児の様子が分かるらしい。

まだ小さな命だけれど、

妻のお腹で確かに育っているその存在をこの目で見られるらしい。

 

「エディは、見なくても感じているんだろう?」

「まぁ、腹ん中の事だし・・・」

「・・・悔しいな・・・それは元々私の中に」

「うるさい!!っな事、言うな!!」

 

くすくすと笑ってみても、

頬が赤くなった妻は顔を横に向けて、繋いでいた手を振り払った。

 

母親になろうとしてくれている小さな愛しい人。

離した手をそれでも繋ぎ直せば、

ピクンと指を震わせて、そろそろと握り直してくれる。

 

なんて、暖かいのだろう。

午後から休日なら、君のそばにずっと居られるのに。

 

あぁ、でも。

超音波写真なんて物を持って職場に行くのもいいかも知れない。

配偶者を持たない部下たちへ、存分に自慢してやろう。

「親バカですね」

なんて言われるのもいいかも知れない。

そんな事を考えるだけでも頬が緩むのを感じる。

 

ふと、締りのない顔をしていた親友を思い出した。

ロイエド子

半休の日