しとしとと。

雨がまるでカーテンのようにあたりに。

傘を差さないままに、この道をずっと登って行けば、

どうしてかしら、貴方に会える気がするわ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

蛍と星

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

拝啓 マース・ヒューズ様

   エリシアももう女学校にあがりました。可愛いお姉さんです。

 

 

 

「さっきまで、マスタングさんがいらしたのよ」

ふふふっと小さく笑いながら、カタカタと鳴るサンダルの音を響かせて道を歩く。

 

小さな双子ちゃんにお姉さんぶりを発揮して、エリシアはもう眠ってしまった。

金色の髪がまるで姉妹みたいねと、まだ小さなマスタング家のお姫様と遊んでいたのよ。

 

 

 

そうね、あなたもエリシアに弟か妹をっていつも言っていたから、

きっと喜んでくれているのでしょうね。

・・・・・・私は、少しだけ、寂しかったけれど。

 

 

 

少しだけ田舎にある自宅の坂を下りたところには、細い川があって。

長雨の影響か水かさが増している。

水遊びが大好きなエリシアには、川で遊ばないようにいっておかないと。

 

 

夜が更けた時に、この川沿いを歩くのは少しだけ怖いけれど、

あなたがまだ生きていた頃は、手を繋いでよく歩いた場所だから。

それに私、少しだけ強くなったの。

 

 

しっとりとした雨が、肩を濡らして。

あなたが居たなら、少しだけ目を細めて「身体を冷やすなよ」と抱き寄せる場面なのにね。

 

 

 

もうずっと昔のことなのね。

あなたが居なくなって・・・とても時間が経ったわ。

 

まだ結婚もしていなかったマスタングさんは、エドワードさんと結婚して、

ずっと気を揉んでいたあなたも、きっと苦笑いのように笑いながら祝福していたのでしょう?

ゆっくりと、ゆっくりと時間が流れていて、

それはどんなにゆっくりだとしても、確実なもので。

 

 

 

もう、絶対に立ち直れないと言えるほど、私は1人ではなくて。

けれど、誰かにまた恋ができるほど器用な女じゃなかったのよ。

 

 

 

あなたが居なくなって、確かに私の世界は色を薄めてしまったけれど、

それでも夏は暑いし、秋は穏やかで、冬は寒くて、春は優しかった。

ねぇ、泣いてしまいそうなほど、それらはいつもそうだったの。

 

 

あなたが居ないのに。

 

 

この季節のぼんやりとした空気に、ホワリと灯る鮮やかな緑色。

蛍がぽつりぽつりと光りを灯して、川辺の茂みから浮かんでくる。

 

 

 

この綺麗な色は魂の色。

ぽつりぽつりと魂の色。

消えてしまった魂の色。

 

 

 

そうね、きっとこの川を行けば、あなたに会えて。

だから、あなたはここに現れてくれないの。

あなたが本当に愛したあの子を1人にできないから。

 

私は1人でこの川辺を歩いても、あなたに会えなくて。

ぼやりと浮かぶ緑色の光りを追いかけるだけ。

 

 

 

少しだけ、エドワードさんが羨ましかった。

けれど、あなた以外に嫁ぐつもりも、エリシアの父親があなた以外なのも、全く想像できないから、

・・・・・きっとこれでいいと思うの。

 

 

 

 

もうすぐ七夕。

この空が綺麗な星で瞬く頃に、今度はエリシアとここを歩こうと思うの。

もう蛍は終わってしまうのだろうけれど、満天の星空はあなたの笑顔に見えるかしら。

ロイエド子