チラチラ
白いその形状は柔らかく六花。
機械的な模様であるのに、まさしく自然なもの。
それは大切な誰かのような。
「もうっ姉さん、はやく用意しなよ!」
待ち合わせまで時間が無いというにも関わらず、
姉は鏡の前から動こうとしない。
フンと拗ねたような顔を見せるものの、
赤くなった頬では説得力はまるでない。
ここ中央は、華やかな空気を纏い、
今宵の準備に皆が早足である。
それもそのはず、今宵は聖夜。
かの人の生誕を祝いながらも、各々が大切な人との一夜を過ごす日。
日ごろから「神さまなんて信じない」なんて言っている錬金術師であっても、
それは変らず。(都合が良いかな?とは思うけれど)
まぁ、神さまを信じているから参加するわけではなく、
そこが楽しめる空間であるか否かかが大切なのだとは思うけれど。
結婚してから少したったばかりのそれでも新婚さん。
姉としては2人で過ごす「クリスマス」なんてものをしたかったのか知れない。
しかし、それが錬金術師2人で、姉はとても恥ずかしがりやなものだから、
言い出せないままに、義兄は軍でも結構な地位にいる訳で、
こうして軍部の「クリスマスパーティー」なんてものに出席することになった。
ドレッサーには義兄が姉のために用意したと思われるドレス。
露出が少ないそのデザインに義兄の思いが込められているようで可笑しい。
裾がフワリとしたオレンジ色のドレスには、
小さな飾り花が付けれていて、薄いショールはとても綺麗だ。
「早くドレスに着替えてよ!髪飾りを付けられないじゃない」
姉の用意と、自分も招待状を貰ったのでこうしてここにいる。
リゼンブールでもクリスマスを楽しみたいとは思ったけれど、
招待状には「同伴者」の文字があったりして、
それを「パーティー」なんて縁が無いけれど、行ってみたいと思っていた幼馴染に
見つかったりして、嬉々として「行きたい」なんていうものだから、
一緒に田舎から出てきたのだ。
「これからずっとリゼンブールのクリスマスは楽しめるでしょ」
と言った幼馴染の言葉が嬉しかったからかも知れないけれど。
幼馴染は別の場所で用意をしてすでに待っている時間だろう。
なのに姉が用意をしてくれないので、自分もここから出て行けない。
「どうしてそんなに嫌がるのさ・・・。
まぁ、2人で過ごしたかったってのも分かるけどさ」
それでも姉は軍司令官の妻になったのだから、
それなりに外には出て行かなければならないだろう。
「・・・やなんだ」
「え?なに・・・姉さん」
ポソリと呟かれた言葉に耳を傾ける。
「だから!・・・俺が行ってもドレスなんて似合わないし、
きっ綺麗な女の人なんて沢山いるだろ?・・・だから」
(・・・・)
なんだろうこの感じ。
頬を赤くして、うつむいて、
人差し指をくっつけたりしながらポツポツと話す。
・・・可愛いんですけど。
自身が無いなんて言ってる場合ではない。
こんな可愛らしい様子でいたら外に出すのは危険なのかも。
(・・・だから、このドレスなんだろうなぁ)
チラリともう一度かけてある露出の少ないドレスを見る。
姉さんの白い肌も、整った体系も、
隠してしまうのは勿体無いと思う(弟ながら)
しかし、それをそうしないのは、害虫除けなのだろう。
(外と関係させないのは、姉さんが恥ずかしがってるのは建前で、
義兄さんがただ関わらせたくないだけなんじゃ・・・)
本人に全く自覚がないのも恐いことながら、
この可愛らしさは今までにないものだ。
『会場まで連れて来てあげてくれないか?
私もすぐに合流するが、それまで1人にはさせないでくれ』
確か、義兄はそんなことも言っていたっけ。
さすがに中央で迷子になるなんてないだろう?と思っていたけれど、
こういう理由か。
「・・・姉さん?このドレスはきっとすごく似合うし、
姉さんが行かないなら、お義兄さんの隣に別の人が立つわけだけど、
それでもいいの?」
「・・・嫌だ」
「はいはい。なら着替えましょうね」
コクリと頷いて、オレンジ色のドレスに袖を通す。
大丈夫だよ。
こんな綺麗な姉さんが横にいて、近寄ってこれる女性なんて、
幼馴染の彼女か長年の副官である彼女ぐらいのものだろうし。
第一、あの義兄さんがあんな幸せそうな顔していたら、
近づけないと思うよ。