カツンカツン
滑らない程度に磨かれた床は、革靴の音を響かせる。
右手に書類を抱えてはいるものの、急ぐほどのものではなく、
ゆっくりと目的地を目指す。
自分の横には、金髪。
しかし、それは求める鮮やかさとは別のもので、
逆にうっとうしく感じている程である。
はっきり言って、並んで歩きたくなどない。
「ロイ先輩〜!!」
無視
「先輩ってば!!」
ひたすら無視
「あっエド・・・」
「何!!」
ガバリと振り返ると、いつもの咥えタバコが額に手をやっている。
「・・・聞こえてるんじゃないですか・・・」
だからといって、何故男相手に振り返らねばならないのか。
そのまま、横に付かれて、進む方向も同じ・・・。
「ハボック・・・お前どこを目指している」
「・・・たぶん先輩と同じとこだと思うんスけど」
現在、時刻は3時。
いわゆるお菓子の時間。
この時間になると、ホークアイ婦長は休憩をとる。
暖かい紅茶とその日のお菓子を添えて。
傍らには、お気に入りのナース。
エドワード。
一度、その光景を見た時・・・やばかった。
その日の、お菓子はケーキだったらしく、
もぐもぐと口いっぱいに運んでは、美味しそうに咀嚼する。
言うなら、木の実を頬張るリスのような可愛らしさ。
しかし、その・・・クリームを頬につけている姿と言ったら
言わないまでも、その、やばいわけで・・・。
「エド、クリームついてるぞ」
偶々いたハボックが指し示すと
コクンと首を傾げて、どこ?などと問いかけてきた。
ハボックも固まったが、自分も固まった。
頬にはクリーム
下から覗き込むようにして問いかける仕草
可愛すぎたのだ。
それからと言うもの、時間を見つけては
午後の休憩をしている彼女たちを拝もうとこうして足を運んでいる。
休憩室の前に着き、さあドアを開こうとノブに手をかけた時中から声がする。
もちろん、そこにいる人を予想しているのでおかしい事ではない。
しかし、それは話し声というようなものではなく、詰まったような声。
それにハボックも気付いたのか、こちらを見ている。
その顔に頷き、二人でそっと扉に耳を当ててみた。
「っ・・・リザさん」
「大丈夫よエドちゃん。恐くなんてないわ。」
「っ・・・でも・・・」
「これが済めば、大人になれるわ」
ビクリと体を離したのはハボックで、恐る恐るといった感じで
再度こちらを見た。
「・・・あの、なんか変じゃないっスか」
小声になっているのは、仕方のない事だろう。
それに合わせて、自分も小声で答える。
「・・・まぁ、何かはおかしいと思うが、・・・まさか」
そうしている内にも声は聞こえてくるので、
そのまま、扉に耳を戻した。
「エドちゃん・・・まだ、なの」
「この歳では変ですよね・・・でも、まだなんです」
(変じゃない!!断じて!!そんな相手がいたら焼き殺してやる)
(・・・撃ち殺すかも・・・)
「そうね・・・」
「やっぱり、痛いんですか・・・?」
「人それぞれだと思うけれど、血は出るわね」
「あぁ・・・」
(私なら、痛くしない自信があるよ!エディ!!)
「私がしてあげましょうか」
((!!??))
「えっでも・・・」
「大丈夫よ。」
「・・・恐い・・・」
「優しくしてあげるわよ。それこそ男の人じゃ、恐いでしょ?」
「うっ・・・それは恥ずかしいかも・・・」
「エドちゃん・・・可愛い。」
「リザさん・・・お願いします」
「じゃあ、開けてみて」
「ふっ・・・あっ」
((・・・!!!))
「エドワード!!」
「エド!!」
バタンと勢いよく扉が開けられて、中に二人の医師がなだれ込む。
ホークアイ婦長に奪われてなるものかと一心に、
慌てた二人が見たのは、
瞳を潤ませたエドワード。
「ふっ婦長!!エドに何したんっスか!!?」
「そうだ!君はいつも私たちに手を出すなとカルテを投げつけておきながら、
密室に連れ込んで!!見損なったよ」
急なことで、キョトンとしているエドワードの傍らで
なにやら誤解を受けていると感じたホークアイは、ため息を一つ溢した。
「何を勘違いなさっているかは知りませんが、突然なんですか」
エドワードとの楽しいお茶会を邪魔されたのは今回だけではないので、
ホークアイとしても面白くない。
「っな!開き直ろうとしても無駄だ。私たちは全て聞いたのだから」
「そうっスよ。エドは、まだそんなこと知らなくても全然いいんです!」
なんだかんだと言い並べるも、言いたい事は一つ。
自分は手を出していないのに、ずるいと言う事だ。
その二人の状況から、今までの会話を検討すれば、
ホークアイは何を勘違いしているのかを的確に推測してみせた。
「・・・エドちゃんの歯を抜こうとしていただけです」
「「は?」」
今度は、二人がキョトンと言い返す。
それでも意味は通じていないようで、ホークアイは頭を抱えたくなった。
「エドちゃんの歯が全て永久歯に生え変わってないって話だったんです。」
会話を補えば、こういう事。
「っ・・・リザさん」
「大丈夫よエドちゃん。歯を抜くなんて恐くなんてないわ。」
「っ・・・でも・・・」
「これが済めば、大人の歯になれるわ」
「エドちゃん・・・一本はまだ、乳歯なのね」
「この歳では変ですよね・・・でも、まだ乳歯なんです」
「そうね・・・」
「やっぱり、歯を抜くのって痛いんですか・・・?」
「人それぞれだと思うけれど、歯を抜けば血は出るわね」
「あぁ・・・」
「私が抜いてあげましょうか」
「えっでも・・・」
「大丈夫よ。」
「・・・恐い・・・」
「優しく抜いてあげるわよ。それこそ男の人じゃ、恐いでしょ?」
「うっ・・・言うの恥ずかしいかも・・・」
「エドちゃん・・・可愛い。」
「リザさん・・・お願いします」
「じゃあ、口、開けてみて」
「ふっ・・・あっ」
「「・・・・・・」」
事の成り行きを聞き、さーと青ざめる二人の医師。
「っと俺、リハビリに行かない・・・と」
「あぁ、私も検診が入っていたのを忘れて・・・いた」
ゆっくりと方向転換をした二人は、
見えなくとも殺気を感じるその場から動かない足を叱咤した。
「・・・お二人とも、私の可愛いエドちゃんで、
いかがわしい想像などしないで頂きたいのですが・・・」
「えっ?リザさん。二人が何って??」
1人訳の分からないエドが心配そうに聞くも、
「エドちゃんは知らなくていいことなのよ」とものすごい笑顔で返されて、
「少し用事が出来たから、ごめんさないね。」
と、ロイとハボックを半ば引きずるようにして退室していくホークアイを
見送ることしか出来なかった。
「????」
翌日、ホークアイは真新しいカルテを持参した。
「あれっ?新しいのですか?」
「ええ、昨日壊れてしまったの。」
ロイ・マスタング及びジャン・ハボック両医師、
全治二週間の怪我ではあったが、休業の措置はとられず。
看護は、婦長の有り難い、完全看護だったとか・・・。
15歳未満お断り??