おどろおどろしい飾りつけにカボチャのランタンを持って。
早く寝なさいなんて言われないこの夜は、いつもより賑やかになる。
家々を回り、口々に同じ呪文を唱えて、
恐怖なのかおちゃらけているのか、主は小さなお菓子の袋を手に出す。
はっきり言って、いたずらより目当てになってしまっているそのお菓子は、
嬉々とした瞳に凝視され、手に持つ可愛らしいバスケットや袋の中に次々と納まった。
「あぁ!!マリーにはキャンディがない・・・」
「でもマリーはビスケットが三枚あるじゃない。」
我が家の可愛い魔女たちは、手に持たせたバスケットを一杯にして帰ってきた。
今日はハロウィン。
子どもたちのお祭りのようなその行事。
家に帰ってくるなり、いたずらと引き換えに渡されたそのお菓子を
並べ始め、そして、その数を数えていた。
もちろん何人もの子どもたちにお菓子を提供する大人たちはその数を用意しているが、
それでも内容に差が生まれているらしく、双子の姉妹の場合もそうであるらしい。
「うんっと・・・ロジーがキャンディが多くて、マリーはビスケットが多いの?」
横でやり取りを聞いていれば、どうやらその様らしい。
魔女の大きな帽子は既にとっているものの、黒いワンピースに
首下に大きなリポンのあるマントはそのままの姿でコクンと頷いて見せた。
「だったら、ロジーのキャンディとマリーのビスケットをかえっこしたら?」
その提案にぱっと顔を綻ばせて、うんうんと頷いて、
互いにお菓子を差し出した。
これで一緒だね。と並べたお菓子を自分のバスケットに戻していく。
「さあ、一件落着したなら、カボチャのスープがあるから温まって寝ようね」
今日は町中が賑やかであると同時に、こんな日にも事件は増えるようで、
可愛い娘たちの仮装姿を見ることのできなかった父親、ロイ・マスタングは遅めの帰宅となった。
昨日の夜に、「明日はこれを着させるんだ」と妻から見せられたのは
可愛らしい魔女の衣装とその持ち物。
こんな可愛い魔女がいたら、攫われてしまうのではないかと衣装の改善を求めた。
そんな事を言ったら、妻は笑って「だから、ロイが警護するんでしょう」と
その提案を却下した。
カボチャのランタンが飾られてユラユラとした明かりに玄関が照らされている。
昨日の持ち物の中にもこのランタンがあったので、娘たちが持ち帰ったものを
明かりとして飾っていてくれているのだろう。
カチャリとドアノブを回して、眠ってしまっているだろう娘の邪魔にならないように、
「ただいま」と帰宅のあいさつをする。
すると、奥のダイニングのドアが開き、ひょこんと妻が顔だけだして、「おかえり」と言った。
いつもならば、入り口まで来てくれるのに、今日はそのお迎えはないようだ。
少々不思議に思うものの、まぁ、こんな日もあるだろうかと軍支給のブーツを脱ぎ、
コートを手にかけて妻の待つダイニングへと向かった。
「Trick Or Treat !!」
そこに待っていたのは、金色の髪をした魔女が1人。
「・・・エディ。」
その可愛らしい出迎えに、そういう意図があったのかと嬉しくなる。
「お菓子くれなきゃいたずらするぞっ」
大きな魔女の帽子と黒のワンピース、リポンの付いたマントは、
昨日見た娘たちの衣装と同じものなのだろう。
ごそごそとポケットを探してみるも、どうやらお菓子は入っていない。
町中でそれこそ一晩配っているのを見ていたのだから、何か一つぐらい貰ってくればよかった。
可愛い魔女にあげられるものがない。
「無い・・・。」
「無い!?じゃあ、いたずら決定〜!!」
魔女は大きく手に持っていたほうきを翻して、
自分のもとへとテトテト進み寄ってきた。
何をされるのかと、反射的に屈んで待てば、
スッポリと大きな帽子を被らされた。
「エディっん」
目の前が暗くなったと思ったら、すぐに金色が目に入り、
そのままキスを贈られた。
「・・・えへ。いたずらってことで。」
唇を離せば、頬を赤くしている魔女がいて。
もう、なんだかとっても可愛くて。
「出来れば、もう少しだけ、いたずらに付き合って頂きたいのですが」
被った帽子を深く被り直して、
「Trick Or Treat ?」
「何も無いよ」
「なら、いたずら決定だね」
手を広げて何も持っていない事をアピールする魔女を
フワリと横抱きにして、その額に口付ける。
お菓子をくれない人には、いたずらを。
カボチャのランタンで待っているから