わぁ可愛い魔女だね。
(きっと義兄さんも見たかっただろうね)
【カボチャと魔女】
もう5年も昔になるだろうか。
あの幸せな時間が1度終わりを告げてしまってから。
どうして神さまはこんなにも自分たちに意地悪なのだろうか。
この身体を取り戻すことが出来た時には感謝すらした神という存在は。
(もう一度姉を奈落に突き落とした時点で神は悪魔なのだと思ったけれど)
幸せだと泣きそうにいった姉とその姉をずっと見守って寄り添ってきた人を
掠め取るようにして引き離し。
(あぁ、まったく悪魔の所業で)
見取るものが誰も居ないような場所で1人で逝かせてしまうだなんて。
あの時の、義兄の死を知らされた時の姉の無表情さは今思い出しても怖いぐらいだった。
「死んでしまった」のだという、
どう考えても覆らないと明白な声で知らされてしまったその無慈悲な通告。
姉はピクリとも動かないままで、「嘘だ」と一言言った。
あぁ、何度姉の絶叫を聞かせれば気が済むというのだろうか。
それほどまでに、姉は神に嫌われるような所業をしたというのだろうか。
姉のお腹に新たな命が宿っていることに、僕はいささかの不安を持っていた。
だって、あんなにも愛した人がいない世界で、どう生きていけと僕が言えるというのだろう。
「お腹の子どもの為にも」「死んでしまった義兄さんの分まで」
あぁそんなのは何も知らない人が、言うのだろう言葉であって。
愛した人を失うという事がどれほど姉にとって辛いことか。
それはどれ程の痛みを姉に与えてしまうというのだろう。
命を軽く扱う事のできない姉にとって、お腹の中の命というものが、
どう作用するのだろうかと怖かった。
愛しい人の下に行きたいと望む姉を引き止める事ができても、
心までは引き止められず、狂ってしまうのではないだろうかと。
しかし、そんな考えが杞憂であったという事は、今の様子から見て分かる。
姉は義兄との間に出来た一人娘とともに中央で暮らしている。
段差の少ない家の中。
家具の角は綺麗に丸められ、子どもがぶつかってしまいそうなところには、コルクが張られている。
(姉のお腹に子どもができた事を知った義兄が施したらしい)
1度は火の消えたような静けさだった場所が、明るい暖炉の光りを取り戻している。
リビングの中央に絨毯があり、小さな魔女がちょこんと座っている。
それは五歳になった姪が家々から貰ってきたお菓子を楽しそうに数えているところだった。
ハロウィンの夜に魔女の衣装を着て。
「お菓子をくれなきゃいたずらするぞ」ときゃらきゃら笑って遊んでいる。
家の中は甘いクッキーの匂いで満ちていて、
それは姉が手作りのクッキーを作り、家に訪ねてくる子ども達に配っているからだ。
ねぇ、姉さん。
この世はひどく不均衡で、いつも危うさを背負っているけれど、
この風景に泣きたくなるのはどうしてだろうね。
小さな魔女が可愛らしく笑うたびに、胸の奥がツキリと痛む。
今にもあの小さな身体を抱き上げて、
「可愛い魔女だね」と幸せそうに笑う様子がありありと想像できて、
ジャック・オ・ランタンの光りがきっともっと優しく感じられたのだろうと思う。
あぁなんでここに義兄がいないんだろう。