返してください。
貴方には荷が重過ぎる。
泣いてはいないですか (泣いているのだろうけれど)
震えてはいないですか (震えているのだろうけれど)
全てにNOと言うならば、
貴方の目は節穴でしょう。
全てを見せてはいないのでしょう。(見せていたのは私にだけなのだから)
だから、どうか返してください。
貴方になど二度と祈ったりはしないから。(祈る意味などないのだけれど)
何より前を睨んでいた彼女を誰が包めるというのだろうか。
誰より自分を愛さなかった彼女を誰が愛さずにいられただろうか。
全てに貪欲でそれ故に全てを手放した彼女を誰が笑えるだろうか。
あぁ
返してください。
彼女はまだここにいたいと望むのに、
その声すら出すことを禁じているのです。(願えばそれを成す者がいるから)
失ったものを取り戻すことさえ禁忌になるのに、
奪っていく貴方は許されるのか。
貴方が望みはしなければ、誰も禁忌など犯すはずも無いのに。
何かに耐えて、グッと掌を握り締める仕草を見ましたか?
揺れる瞳をゆっくりと閉じる様を見ましたか?
微かに開いた唇をきつく閉じるその姿を見ましたか?
ならば、どうして攫ってゆけるのか。
1人で歩かせることができるのか。
何より孤独に耐えていたのは誰か。
何より人を愛していたのは誰か。
何より明日を望んでいたのは誰か。
震える指先が掴んだのが貴方というならば、
そんなに滑稽なことはない。
そんなに無体なことはない。
返してください。
貴方が奪う彼女の等価などこの世のどこにもありはしない。
全ての原則が等価交換ならば、
それには決して当てはまらない。
全ての理を決めた貴方が、その理を違えるというのか。
そんな馬鹿な話があるか。
彼女は等価を支払った。
必死に、血を吐き、涙を飲んで、泥にまみれて。
そして等価を支払った。
今になって、それを違えるのか。
返してください。
返してください。
どうか、ここに。
どうか、どうか。
もう決して貴方になど祈りはしないから。
返してください