寒桜、白樺、寒椿に南天

寒さに凍える冬に気高くある者たちよ

その姿に、愛しい彼女を重ねてしまう

 

 

 

 

「はぁ〜寒いっスねぇ」

 

赤くなった手に息を当てながら執務室に帰ってきたハボックは、

色の変った軍服を着ている。

じっとりと湿ったその軍服は、常より幾分濃い色をしている。

 

 

明日にはスキー場も閉鎖というこの時期に、季節外れの寒波がやって来た。

 

昨夜からの大雪で都市機能は麻痺状態で、

軍部には雪かきの要請がもろもろから寄せられていた。

線路や道路の交通と、商家の軒先、はたまた一人暮らしのおばあちゃんまで。

人当たりのいい上官を持ってしまった軍部の皆様は、

それでも、大きなスコップや雪下ろしの道具を背負ってその場所へ向かった。

 

執務室の大きな窓から見下ろす景色も白一色で、

時折、ビューという強い風に窓は叩きつけられていた。

 

まぁ、人当たりの良い上官殿は(無能になるとばかりに目で訴えられた為)縁のない雪かきに参加せず、

机の上に詰まれた書類を制覇する事が目下の目標である。

 

 

 

「まるで手が氷みたいっスよ・・・」

 

体力自慢のハボックは、一番に仕事を終えたのか、

または寒さに耐え切れなくて帰ってきたのか、淹れられたコーヒーを片手に

今日の寒さについて語っている。

 

そんな様子を見ていて思い起こすのは、

今は傍にいない人のこと。

 

 

あの子は。

あの愛しい人は、この寒さの中でどうしているだろう。

 

 

突然訪れたこの寒波は、いったいどの辺りまでを範囲としているだろうか。

三週間ほど前にここを立った二人は、南下すると言っていたから、

巻き込まれていなければいいけれど。

 

自分の大切な人は、寒さに弱いのだ。

 

血の通う事のないあの機械鎧の腕は、

神経を繋げている分厄介で、体を芯から冷やしてしまう。

疼くほどの痛みをあの小さな体に与えてしまう。

 

 

それでも痛みを感じられない弟の横で、どんな顔をして堪えているのか。

 

 

きちんと宿に泊まっているだろうか。

暖かな風呂で温まっただろうか。

夕食はきちんと食べたのだろうか。

毛布に入ってお腹を出さずに眠るだろうか。

 

 

まったく子どもの心配をしているようだと思う。

 

あんなにも大人になろうと必死な子どもの。

大人に成らなくてはならなかった子どもの。

 

そんな心配をしていると思う。

 

 

夏には太陽を必死に睨んでいるそんな向日葵のようだと思った。

金色の光りを宿した子どもだと。

 

 

しかし、今は。

 

 

ふわりふわりと漂うけれど。

触れれば刺すような痛みを与える六花を。

抱くようにして受けながら。

それでも凛とそこに存するあの冬の花や木々のようだ。

 

 

体温のない腕に舞い降りた白い六花は、

溶けることはないとしても。

手を繋ぐことでその腕に熱を与えてあげたいとそう思う。

 

 

どこにいるのだろうか。

はやく帰ってくればいいのに。

 

あぁ、いい忘れたけれど。

私も寒くて死にそうなんだよ。

 

暖めてはくれないだろうか。

ロイエド子

寒波襲来