風邪ひきの子

頭がグラグラして、

 

目は涙でよく見えなくて、

 

ぼぅっと、頬があつくて、

 

咳が出て、喉が痛かった。

 

 

マリーが外で遊ばないって本を読んでいたのを知っている。

ずっと初雪で遊ぶのを楽しみにしていたのに。

 

雪が降ったら、雪だるまをつくろうねって

ずっと言ってたのに。

 

 

降り出した雪と同じように

熱が上がって、

パパに連れられて、病院に行くと、

「カゼ」だと言われた。

 

 

ママの言いつけを守らないで

昨日、本を遅くまで読んでいたからだろうかと

思ったら涙が出てきた。

 

 

ごめんなさい。ママ。

ごめんなさい。パパ。

ごめんね。マリー。

 

 

カゼがうつってしまうから、マリーとは別の部屋に寝かされた。

1人で眠る部屋は、家の中なのにどこか恐い。

 

静かな部屋に、下からの声がやけに響いて、

熱で潤んだ瞳からは自然と涙が出てくる。

 

涙をこらえようとすれば、喉に力が入って、

コホコホと咳が出た。

 

 

頭もさっきよりずっと重い気がしてきたし、

熱くもなっている気がする。

 

(死んじゃうのかな・・・)

 

1人で、ここで、

このまま死んでしまうんじゃないかって

本当に思った。

 

 

大好きなパパにもう抱き上げてもらえない。

 

大好きなママにもう抱きしめてもらえない。

 

大好きなマリーにもう会えない。

 

 

嫌だ。

そんなのは嫌だ。

こらえようとしていた涙が後から後から

出てきてしまって。

 

お気に入りだった、クマの絵が描いてある

ピンク色のカバーを濡らしていく。

 

 

ごめんなさい。もう言い付けを破ったりしないから。

1人は、とっても恐いの。

 

 

 

 

 

「・・・ロジー?」

 

寝ているだろうか。

昨晩から熱を出した娘は、初雪で遊ぶのを我慢して

ベッドの中にいる。

 

ずっと遊びたがっていたのを知っていたから、

可哀想だとは思ったけれど、これ以上悪化させる訳にはいかなかった。

 

不安そうにしているマリアベルを呼び、

ロゼッタは風邪をひいてしまったから、今日はお外では遊べなという事を話した。

ロジーが遊べないなら、私もいいと言ったマリアベルの頭を撫でた。

 

「良い子だね」と言えば、「一緒がいいの」と笑って見せた。

 

マリーが部屋で本を読み出すのを見て、

昼食の準備を始めた。

 

病気の時には、消化の良いものを。

クツクツと音を立てて、柔らかくなるまで野菜と一緒に

ご飯を炊いた。

仕上げに、溶き卵をクルリと被せる。

湯気を立てるそれを器に移して、

二階で寝ている娘の下に向かう。

 

「私がもっていく」とのマリーの申し出を、

「熱いからね」と断って、もう少し、下で待っていてねといい

二階への階段を上がっていく。

 

ゆっくりと音を立てないように扉を開けて、

娘が眠っているかどうかを確かめようとした。

 

咳が出れば苦しくて眠れないようで、一晩中その背中を撫でてやっていた。

撫でれば、幾分苦しさも紛れるのか、

深夜になる頃には、穏やかな寝息も聞けて安心した。

 

それでも、普段よりは睡眠が十分ではないので、

もしも、眠っているようだったら食事をもう少し後にして

眠らせていようと考えていた。

 

扉の先に小さな体には不釣合いな程大きなベッドがあって、

そこが少し盛り上がっている。

気をつけて気配を探れば、丸まった布団の中から、確かな嗚咽が聞こえ、

娘が泣いているのを理解した。

 

「ロジー?どこか辛い?」

 

傍に行き、持っていたトレーを横に置くと、

娘の顔を見る為に、深く被られたその布団をめくる。

 

父親譲りの黒い瞳が潤んでいて、熱の高さを物語る。

きれいな金色の髪もいつもの艶が無くなっている。

髪をあげて額に手をやれば、まだ熱は高く、

コホコホと咳をする姿が痛々しい。

 

それでも、自分を見上げようとして、顔を上げ、

小さな口を一生懸命に開いて、

 

「ママ。・・・ママ。ロジーもう、よるに本読まないから。

 いい子にするから。1人は・・・やっ。」

 

ポロポロと黒い瞳からは涙が溢れて、

いやいやと首をふる動作を繰り返す娘。

 

 

病気のときは、すごく寂しくなる。

苦しいその時に、誰かに傍にいて欲しくて。

 

 

その気持ちが自分にも覚えのあるものだったから。

 

 

ゆっくりと、その小さな体を抱き寄せる。

もともと高い子どもの体温が、

さらに上昇していて、抱き寄せるだけでその体温が伝わってくる。

 

 

「大丈夫。ママがそばにいるからね。

 マリーもいるし、パパもいるよ。早く、よくなろうね」

 

金色の髪を優しく梳いてやって、

薬を飲む為に、柔らかくしたご飯をスプーンにすくって、

冷ましてから、食べさせてやる。

 

 

大丈夫。

1人じゃないよ。

みんな君の傍にいるよ。

 

雪遊びを一緒にしようと待っている人がいる。

 

残して仕事に行くのが嫌だと、時間ギリギリまで

部屋で頭を撫でていた人がいる。

 

早く、元気になろうね。

 

 

きっとパパは心配して、仕事が手に付かなくて

リザお姉さんに怒られているかも知れないね。

 

時間になったら、すぐに帰ってきてくれるよ。

両手いっぱいに桃やみかんの缶詰を持って。

 

1人じゃないよ。

1人になんて、させやしない。

ロイエド子