【気になったその後の話】
娘が寝る前に決まって歌を歌って欲しいや物語を話て欲しいとせがむ様になった。
自分にも覚えのあることで、「今日はこの話がいい」「この歌がいい」と母にせがんでいたことを思い出す。
ふわりとした布団の上に娘を挟むようにして夫とベッドに潜り込む。
仕事で遅くなる以外、夫は食事とお風呂、そして眠る時間を一緒に過ごしてくれていた。
ずっと以前、まだ出合ったばかりの彼はまるでそんな人には見えず、
家庭というものを想像させるには難しい部類の人間であると映っていたというのに、
まさかそんな人と一緒に子育てをして、人生を一緒に歩いているなんて本当に面白いことだと思う。
「ママ〜歌がいい」
「どんぐりさんの歌!!」
はいはい、と娘の肩まで布団を上げてやり、あやす様にして歌い始める。
眠りが訪れるように・・・良い夢が見られるように。
「どんぐりころころどんぶりこ。
・・・・・泣いてはどじょうを困らせた」
何度も聞いて、何度も歌ったこの歌。
森の中のお池で起こった小さな騒動が切り出されて、軽快な音楽とともに場面が変わっていく。
あやす手の動きをリズムに合わせて、娘の布団をぽんぽんと叩いていると、
娘がふにゃりと落ちそうになっている瞼を動かして、口を開いた。
「・・・ママ?落っこちちゃったどんぐりさんは、お家に帰れたの?」
「え?」
「帰れなかったの?・・・・・ずっとお池にいるのかなぁ」
突然の娘の問いにエドワードはあやしていた手を止めた。
その手の動きが止まった事で、娘はさらに不安になってしまったようだ。
眠りかけていたロゼッタの瞳がうるると今では涙に濡れそうになっている。
感受性が豊かなのか、となりで同じく眠りそうだったマリアベルがこちらも泣きそうになっている。
「ずっとずっと・・・お池で帰れなかったら、ずっと泣いてる?」
「ママやパパにももう会えないのかなぁ・・・」
くしゃりと泣きそうだった瞳からとうとう涙が溢れてしまう。
そうなってしまえば、エドワードとしてもあわわと焦ってしまうわけで、
今までだって何度も歌ってきたはずのこの歌でまさかこんな事になるとは思っていなかった。
どんぐりさんが可哀想だと泣き出してしまった娘が2人。
両親に守られるようにして、暖かな布団の中で泣いている。
「大丈夫だよ」
娘の涙にエドワードもつられて泣きそうになっていた時だった。
娘がいる布団の上を、妻が叩いていたように、今度は夫であるロイがポンポンとあやした。
大丈夫だと言った父親の方を、娘が濡れた瞳で必死に向き直る。
そして、妻もまた声をかけた夫の方を見やった。
「心配いらないよ。あの歌には続きがあるんだ。
どんぐりさんはお池から森に戻ったんだよ」
「どうやって?」
優しい父親の声に娘は問う。
その声にロイはふわりと笑って答える。
「仲良しのリスさんが助けに来てくれたんだ。大丈夫ちゃんと森に帰れたよ。
もちろんパパやママのところにね」
ロゼッタの髪を撫でてやると、今度はマリアベルが問う。
「でも、そうしたら今度はどじょうさんが1人になっちゃう。
せっかくお友達ができたのに」
「そうだね。でも離れたからお友達でなくなるわけじゃないよ。
また会えるし、また遊べる。
・・・ちゃんとどこに遊びに行くか言って出かけたら、ママやパパも心配しないし、
遅くになったら、迎えにいってあげられるしね」
マリーもロジーも明日はまたお友達と遊ぶんだろう?さぁ早くお休みとロイはポンポンと続けてあやす。
規則正しいそのテンポは安心した娘たちに心地よい眠りをつれてきて、
くぅくぅと可愛らしい寝息が聞えてくるのに、そう時間はかからなかった。
「・・・・おどろいた。どんぐりさんは山に帰れたんだ」
娘が眠った後で、エドはロイに話しかけた。
おや?という顔をしてロイはエドを見て、そうして笑った。
「確かそんな歌詞が続いているのだと聞いたことがあるんだが・・・君は知らないかい?」
「知らなかった・・・そっか、三番の歌詞なんて気にもしなかった。
この子たちもさっ昨日までは全く気にしてなかったのに」
さらりとエドは隣で眠る娘の髪を撫でて、くすりと笑う。
「大きくなっているんだ。
昨日気付けなかったことに、今日疑問を持って。
今日分からなかったことを、明日気付くように。」
ロイも娘を覗き込む。
「よしっ!!俺もちゃんと三番の歌詞を見つけてやるっ。
次はどんぐりさんが家まで帰るまで歌えるようになってないとな」
生来の研究者気質というか、負けず嫌いというか。
エドは小さくガッツポーズを作りながらそう宣言した。
そんな娘に負けず劣らず可愛らしい妻を見て、ロイはまた優しく笑った。