まぁるい まぁるい
「あそこに光るのがお月様。その中でぺったんお餅を搗いているのがウサギさん。」
空に明るいまるいお月様が上った夜に、金色の宝物を腕に抱きしめて2人は庭に立っていた。
一週間前の暑さが嘘のように、湿った風からひんやりとした風に姿を変えて、
緑が多い庭の隅では虫たちの宴が賑わってもいるようだ。
うぶうぶと口を動かしている娘の頬をロイは突付きながら優しい笑顔を浮かべていた。
暖かくて、ほにゃほにゃで、熟れる前の桃のようで、何だか形の見えない幸せというものを両手一杯・・・いや、それ以上にたくさんギュッと詰め込んだような、そんな存在。
隣でエドワードは空に浮かぶ月を腕の中の娘に見せながら、優しく語り掛けていく。
暗い夜道をキラキラまるで宝石箱に変えてしまうような綺麗な金色のお月様。
見上げる瞳の色が夫のそれと同じ輝きをもっていて、その瞳がじっと空を見てはほにゃりと笑う。
月に居るウサギは 自分を捧げたとても心優しいウサギ
木の実もキノコも清らかな川にいるお魚も 何も採る事が出来なくて
考えて、考えて・・・そうして自分を捧げたウサギ
「私には何も差し上げるものがありません。どうか私を」とウサギは火の中に飛び込んだ
神は悲しみの涙を流した
なんと優しいウサギだろうと抱き上げたウサギは既に息をしてはいない
「心優しいウサギを月に」
神は新たな命を与えて ウサギを明るいお月様の中に蘇らせた
「あぁ・・・・風が出てきたね・・・上着を持ってこよう」
中秋の名月という日に、庭から家族揃って月を見上げた。
いつもは夜でも街灯の光りに煌びやかなネオンが輝く中央の街。
しかし、今日は夜の深い闇が広がり、ぽっかりと輝く月が美しく光る。
チェックの肩掛けを妻に掛けてやり、娘にはミルク色のポンチョをふさりと一緒に抱きかかえる。
「こうして一日、一日を大切にしていこうね、ロイ」
掛けてくれた夫にありがとうとお礼をいってから、腕の中の娘にもポンチョを貰う。
「季節の風の変化とか、虫の鳴き声に月の明かり・・・そんな1つ1つに気付けるように、
そうして大切にして一緒に生きていこうね」
月の明かりが照らす庭に、小さな娘を抱きしめた子育て初心者の夫婦がいた。
それを見ていたのは、夜空のお月様とお餅を搗いているウサギ。