あぁ今年も暑くなったなぁなんて、テラスに照り付ける太陽を見る。

          その延長にいつも気にしていた彼女は、今では2児の母親だ。

 

 

 

 

 

 

夏のお誘い

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「自由に動く手足が必要だ。機械鎧をつけてくれ」

 

まったくとんだ願いを口にするものだ。

だってあんたは女で、幼馴染で、アルの姉で。

このボルトが肩に埋められて、配線を繋いだ鉄の塊が腕と足に装着される。

私は、ずっとばっちゃんと一緒にいて機械鎧がどんなものか知っていると思うし、

それには自信も愛着も尊敬すら持っていた対象なのかも知れない。

 

でも、だから。

 

この機械鎧があんたみたいな小さな身体にどんな影響を与えるか知っている。

この機械鎧がどれほどの激痛とともに取り付けられるかを知っている。

この機械鎧がまだ完璧な手足のようには動かないことも知っている。

 

 

そして、何よりあんたが1度言い出したことを曲げるような奴じゃないって知っている。

 

 

 

 

 

 

コンコン

 

 

「はぁ〜い」

 

「入るよ」

 

 

「どしたのばっちゃん?お客さん?」

 

 

太陽の光りを眺めていたら、部屋のドアをノックする音が響いた。

キィと少しだけ軋んだ音の後に、見慣れた家族が顔を覗かせる。

 

 

「いや、どうしたんだい?ぼんやりしちまって」

 

 

随分と顔の皺が増えた祖母は、窓のほうを眩しそうに目を細めて見た。

たくさんのモノを見て、たくさんのコトを知っているそんな人の顔。

 

 

「う〜ん・・・夏になるとさっ・・いっつもエドの事考えてたなぁと思って。

 だってあいつ機械鎧だと腕も足も熱くなるじゃない?」

 

 

機械鎧は鉄の塊だ。

夏の日差しは大敵で、神経に繋いだ線ごと身体に熱を伝えてしまう。

外からの熱と内にこもった熱は機械鎧の改善点の重要な課題であった。

 

 

 

夏にはノースリーブのワンピースだとか浜辺での水着だとか。

ミニスカートにサンダルだとか可愛らしい格好の女性が溢れているだろう。

そんな中、幼馴染は変わらぬコートを纏って己の腕と足を晒す事無く過ごしているということが、

堪らず辛かった。

 

 

今はどこにいるだろう?

倒れてなんていないだろうか、熱を出していないだろうか。

辛くないだろうか、泣いていないだろうか、無理して笑っているんだろうか。

 

 

自分が「ここに帰ってくる」2人を迎えること、

それが今の自分にできることなのだと思うけれど。

 

それでも、大切な幼馴染が辛いのではないかと、

この機械鎧の工房からいつも夏になるとその日差しを見上げていた。

 

 

 

「そうだねぇ・・・・あの子も無茶ばかりしていたから」

 

 

丸く小さい眼鏡をくぃとあげて、ばっちゃんは同じように日差しを見ていた。

泣くことも一緒に嘆くこともしなかったけれど、祖母も同じように心配していたのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

この晩。

リゼンブールのロックベル家には一本の電話がかかる。

田舎町には珍しいリンリンというベルの音。

 

 

出たのはピナコ・ロックベル。

短く笑い、いくらかの話をしたあとで、隣でパンを食べていたウインリィを呼んだ。

 

 

「エドからだよ」

 

 

慌てて口に入れていたパンを水で流し込んで、ウインリィは受話器を受け取った。

 

 

 

「おぉウインリィか?元気にしてるか?」

 

「ってエドはいつも急に連絡してくるんだから・・・」

 

「電話っていうのは、急にかけるもんだろうが」

 

「・・・・・まぁそうなんだけど、で何?」

 

「お前って・・・まぁいいや、実はお願いがあるんだけど」

 

 

 

 

孫娘に受話器を渡したピナコはウインリィの嬉しそうな声を聞きながら、

静かに夕食のシチューを飲んだ。

このシチューは電話先の相手の大好物で、「おやまぁ、匂いでも伝わったのかね」と1人笑ってみる。

家族で里帰りして来た時には、一緒にキッチンで料理もした。

随分と手際も良かったし、あの子たちの母親、トリシャの味も良く覚えている。

きっと電話先の食卓にもエドの手で作られたリゼンブールの味が並んでいることだろう。

 

 

 

チンと音がなって、受話器は下ろされた。

ふふっとウインリィが笑うのをみて、ピナコは尋ねる。

 

 

「どんな話だったんだい?良い事でもあったのかい?」

 

「だってね、ばっちゃん!!エドったら、今度海に行くから一緒に行かないかって!!」

 

「エドが海に?」

 

「そうっ!!もちろんロジーとマリーも旦那さんも一緒にね。

 『海なんか一緒に行ったら、あいつ絶対暴走するから、一緒に行ってくれないか』だって!!」

 

 

エドの口真似をしながら、笑っていうウインリィ。

エドが口にしたという、『あいつ』が誰であるのかピナコにもすぐに伝わり、

それは新たな笑いを連れて来た。

 

 

エドがあいつと呼び、家族で海に行くことになり暴走する誰か。

その推理は簡単なもので、エドの旦那であるロイ・マスタングその人であろう。

 

 

 

「それは大変だ・・・付いて行っておやりよ」

 

「うんっ!!へへっ私エドと水着で遊ぶなんて初めてよっ!!」

 

 

 

小さな頃は水遊び程度の事しかしたことがない。

簡単なシャツに捲り挙げたズボンやスカート。

細い川に入って遊んだり、庭に作った小さなプールで遊んだり。

 

 

少しだけ大きくなった時、幼馴染はこの村にいなかった。

帰ってきてもその機械鎧は修理中で、弟は血印を消してしまうような水遊びなど出来る体ではなかった。

そもそも、遊ぼうなとどいえる状況ではなかったのだ。

 

 

 

熱い夏が来た。

それはいつも心配の種で、鳴り響く電話の音は不安を煽っていたけれど。

 

 

遠い空にいる私の幼馴染はとても幸せそうで、

夏の暑さを随分と柔らかく感じることが出来そうだ。

 

ロイエド子