「全くどういうことだ?本当にあいつらは通信機器を破壊していなかったのか」

 

 

 

司令部に引き返す間、ロイは顎に手を当てて思考を深める。

運転席には煙草を咥えたハボック、隣の席で資料を捲っているのはホークアイだ。

 

 

「まぁ、あの状況で嘘をついているというのも・・・考え難いんじゃないっスか」

 

煙草を咥えながら器用に話すハボックの脳裏には痛めつけられたテロ犯の姿が浮かんでいた。

壁にぶつかりノビてしまった頭と、その情景に恐れ慄いていた犯人たち。

まぁ、下の下といえるほどの小物たちが、軍事上層部に挑んでいるこの人に挑んだのがそもそもの間違いなのだからそれもしょうがないと言える。

 

ブルリと震えながら、「知らない」と答え続けた彼らに、嘘を付くだけの度量はないだろう。

 

 

「彼らが犯人ではないとするなら、外部の通信機器を破壊したのは誰なのでしょう」

 

ペラリと書類を繰りながらホークアイが聞くと、

ロイは腕を組みなおしながら、分からんと小さく呟きながら窓の外を見る。

 

 

「複数犯?・・・にしては、情報が錯綜し過ぎている。

 まったくの別と言うにしては、時期が重なり過ぎている・・・」

 

 

テロの実行犯はそもそも国の体制に刃向かっているという他に、

自分たちの存在をアピールしたいという欲求によって成り立っているといっていい。

つまりは、裏で操るものの存在がある組織か、もしくは手の上で踊るのを楽しむ酔狂な輩以外は、

ほとんどが自分たちの活動のパフォーマンスに満足するという者達で構成されている。

 

そのいい例が犯行声明である。

自分たちの力を誇示することに大きな目的を置いている。

 

 

「もう一度・・・犯行声明を洗いなおすか・・・」

 

「うげっ・・・マジっスか?」

 

 

ハボックは運転しながらも、今度は処分しようとまとめておいた声明の山を思い出した。

奥歯で煙草をかんだハボックをミラーで捕らえながら、

ロイは組んでいた腕を解くとクシャリと常より艶を無くした黒い髪を掻いた。

 

「混乱を狙ったにしろ、どうにしろ、不可解な点が多すぎる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハボック少尉!!」

 

「失礼するぞぉ」と間延びした声で登場した上官に室内の者は驚きながら立ち上がり、

一同敬礼して答えた。

 

犯行声明の洗い出しを命じられたハボックとブレダは部下にそれぞれ仕事を分配しようと考えた。

司令部に届けられた声明の同じ文面のものをより分け、それを報告書にまとめなければならないのだ。

より分けの作業だけでも手伝わせる気満々といった様子だ。

書類の扱いよりも銃の扱いや体術に長けた者達ではあるが、まぁ仕方ないというところだ。

 

ブレダとハボックが腕に抱えているダンボールにはごっそりと犯行声明が入っている。

 

「まぁ・・・似たのだけあらかた集めて、分類番号でも振り分けてくれや」

 

ドンと入り口近くのデスクにダンボールを下ろすと、唖然としていた者達に声をかけた。

 

ガサガサと音を立てながら、それぞれのデスクに一抱えずつ声明を運んでいくのを見ながら、

ブレダとハボックは「今日も徹夜かなぁ」とぼんやり思っていた。

 

 

「あれ?」

 

小さな声で、デスクに戻る途中の男が立ち止まる。

 

「どうかしたのか?」

 

ハボックはひょこりとその顔を覗き込む。

 

「あっ・・・いえ、この文面のタイプが・・・軍支給のものではないかと・・・」

 

小さな声に反応を返した上官にわたわたと答える。

 

「あぁ・・・貸してみ。きっと・・・お偉いさんの准将いじめってところか」

 

「あの人も随分と敵が多いなぁ・・・」

 

部下の手からタイプされた用紙をするりと受け取り、

どれどれとハボックの手に持たれているそれを、ブレダは横から覗き込んだ。

犯行声明に混ざって送られてきた准将いじめの偽モノならば、

軍支給のタイプライターで作成されていても不思議ではない。

 

 

 

「・・・・まぁ・・・・・あれだな。どこにでもありそうな・・・・」

 

「おい!これ・・・・!!!」

 

 

ブレダは犯行声明に書かれていた最後の文面に声を上げた。

無骨な軍人の指が整然とした文面をなぞる。

 

 

「あの・・・そのタイプライターの型番はM32-5だと思うのですが・・・・」

 

 

声を上げた上官にビクリと肩を揺らしながら、男は続けた。

 

 

「自分は、司令部内の備品管理を任されていますので・・・その・・・分かるのですが。

 現在、その型番は古くてほとんど仕様されてはいません。

 当司令部でも現在では・・・確か、1つしか・・・」

 

 

「「どこの部署だっ!!」」

 

 

ますます縮こまっていく下官の襟元を掴み、ガクガクとその肩を揺らす。

「俺は准将に知らせてくるっ!!」とブレダは駆け出していく。

周りの者達はきょとんとこちらを見ている。急に動き出した時間に唖然としてるのだ。

 

 

「諜報部・・・の」

 

 

ロイエド子