「いてっ・・・強く縛りすぎなんだよったく・・・」
反撃したまでは良かった。
適当に練成しながら相手の顔を確認した時に、やっぱりとか思いながら、
それでも反撃を続けたりして。
大きな音を出していたり、練成光によって暗い夜中でも騒ぎは大きくなるだろう。
もうすぐ夫が来てくれるだろうとか思ってしまっていて。
一階に辿り着いて、リビングの扉をトゲトゲに練成して(ドアノブは掴めなくなった)、
それでも蹴破って入ってきたから、フライパンを・・・丸っこい鳥に練成して(アンテナ付き)、
鉄の鳥がパタパタと飛び回っている横をヒラリと抜けて、
さぁこれからどうしようかと思っている時に、ゆっくりと落ちそうになっているモノに気付いてしまって、
反射的にそれを受け止めようと手が伸びて。
それは、2人で写った写真が入れてある写真たて。
結婚式の時に田舎の人々が贈ってくれた写真たてだった。
「想い出を二度と捨てるようなことはしてはいけないよ」と。
白いガラスと青色のガラス、散りばめられた緑と赤。
それは田舎の風景を思い出させる色で、とても気に入っていたもの。
後から思えば錬金術で直せるだろうとか言われるかも知れないけれど、
だからと言って、目の前で砕けようとしているそれに手を伸ばさずにいられなかった。
あわやというところで、腕の中に抱き込んで、ほっとしたのも束の間、
クラリと目の前が暗くなった。
キィンとした痛みが頭の奥を支配する。
「殴られた」ことを自覚したのは、ズキリとした痛みのままで目を覚ました時だった。
暗いどこぞの倉庫のような場所で。
丁寧に手は鉄の柱に縄で括りつけられていた。
動かそうとすれば荒い縄目がギシギシと食い込んでくる。
「はぁ・・・本当に詰めが甘い・・・」
「えぇ、本当に」
どこで声を聞いていたのかというようにゆっくりとした声が自分の声に続いた。
ぴちゃんと暗い倉庫に水音が響いて、ひんやりとした空気をより鋭利にしていく。
「・・・ってかさ、縄解いてくんない?痛いんだけど・・・」
「すみません。今、錬金術を使ってもらっては困るのです」
至極普通に、本当に申し訳ないといった声で答えていく。
その声は、リビングで夕食を頂くのは申し訳ないと断ったその声と変わりはしなかった。
「あんたさぁ・・・マジにどうする気なのか知らないけど・・・。
ってか、軍人ていうのも嘘なの?」
「いえ、きちんと軍人ですよ。僕は。
諜報部に在職している・・・これは本当ですから」
「だったらさぁ・・・」
だったら、知ってると思うのだけど。
あいつの奇行とか。
えっだってヤバイだろ?
ドカン!!!
「っちょっと・・・まって!!」
「煩い!!とっととそこをどけろ!!」
「中にいるかどうかも分からないっていうのに」
「居るに決まっているだろう。お前!私の愛を疑うというのか!!」
「そんなこといちいち疑ってなんていられませんって」
「とにかくここだ!エディ!!待っていろすぐに助けに!!」
あぁ・・・来なさった。
というか、妻が攫われているところに、わざわざあんな声を上げて突っ込んでくるかね。
引きとめようとしているのはハボック少尉・・・。
お疲れさまです・・毎度の事。
「あのさ・・・聞えてると思うんだけど、さっさと出向した方がいいと思うんだよね。
今なら・・・無事ではないけど、頭焦げるぐらいで済むように・・言うからさ」
ドカンドカンと倉庫の外では大事になっているだろうことが手に取るように分かるほど大きな音が響く。
その音の方向に顔を動かしたヘッセ伍長は、「そうですね」と言いながら、
カチャリと腰から小型の銃を取り出した。
「にしても、ここが特定されるのが早い気が・・・何かされました?もしかして」
安全装置などとっくに外された拳銃はこちらに照準があわされた。
笑顔を貼り付けて、そのまま見つめ返す。
じとりと流れた背中の汗に気付かない振りをしたままで。