「あぁ・・・・貴女は本当に美しい」
「はぁ?!!」
全く予期していた会話とは真っ向反対の事を言われたような気がして、
エドは大きな声を上げた。
いま・・・なんといわれたのでしょう。
エドはカチャリカチャリと音をさせながら、拳銃を弄んでいるヘッセが、
それでも瞳は何故か潤み出して、幸せそうにこちらを覗きこんでいることに気付いた。
「そんなに美しい貴女が、高度な錬金術を使い、名声を欲しいままにしている。
1度でいいから貴女の瞳に自分が写ってみたいと望んでいたのです」
もしかしなくても自分は相当危ない人とお話しているみたいです、旦那さま。
えっと・・・早く迎えにきてもらえますか?
「東部でお会いしたのは本当です。貴女が軍属に・・国家錬金術師になったと聞いた時は驚きました。
貴女に近づきたくて、こうして軍に入ったというのに、貴女はまるで私を相手にしてくれない」
あっ・・・もしかして、ストーカーとか言う部類の人・・・だったりする?
えっ嘘・・マジに?
こういう人って結構・・・・危ないんだよなぁ。
「貴女の声で、その瞳で睨まれて、ゾクゾクしますよ」
あっこっちもゾクゾクしました。今。
ヘッセは身の上話よろしく自分の話をせつせつとエドに聞かせた。
東部のチェリス出身であることは本当のようで、幼い頃からリゼンブールに訪れたこともあったという。
「貴女の金色の瞳は見るものを虜にしてしまう」とうっとりとした様子でヘッセは語る。
リゼンブールで出会った少女が国家錬金術師になったと知り、ヘッセは軍に入ることを志願した。
最年少で国家錬金術師になった彼女と同じように、田舎出身のヘッセもまた上級試験に挑戦し続けた。
そんな時、ヘッセはふと気付いたことがある。
「彼」と呼ばれるリゼンブールの少女。名前はエドワード・エルリック。
どこでどう間違われているのか定かではないが、ヘッセはもともと彼女の性別を知っていた。
自分を魅了したままであるあの金色の髪と瞳をもつ少女が少年として扱われているという事実は、
ヘッセを酷く混乱させたという。
「あぁ、女性であるエドワードを自分だけは守ってあげなければ」と。
元来思い込みも激しい、そして心優しいヘッセはそう思った。
過激な任務が課せられているだろう少女を自分だけは理解し、そして守らなければと。
「それなのに貴女は」
想い出を語っていたヘッセの顔は至福を浮かばせていたというのに、
突如としてガキンと音を高く響かせた銃を手にして、エドワードを睨みつけた。
「上官であるマスタングと結婚をした。何故です!!
女だとさえ気付いていなかった彼と・・・私はずっと不思議だった。
けれど、やっと分かったのです。
貴女はあの男に弱みを握られているに違いないと。
そして、救い出さなければと・・・」
もう滅茶苦茶な剣幕でヘッセは語り続けた。
エドは目の前で恍惚に浸りながらまるでナイト気取りのヘッセに恐怖を感じ始めていた。
相手を傷つけようとしているのではなく、まったくの思い込みによる犯行。
それが最も厄介な事件なのだ。
早く逃げ出さなければ。