「ちっ中の状況が分からなくなった!!」
手元を覗きながらロイは苛立ちを隠さないままに叫んだ。
隣のハボックはすぐにでも敵のもとに、いや、愛妻のもとに走りこもうとする上司を押さえつけるのに
必死であった。
ロイが叫んだ途端に大人しくなったので、ハボックはその腕の拘束を緩め、
忌々しげにしている上司を胡乱気に見た。
「何ですか、それは」
何ですかと覗き込んだ先の上司の手の中には、小型の『何か』が握られている。
訳の分からない機械のようだが、フュリーならば目を輝かせているかもしれないそれ。
「これは、エディが残していた発信機兼盗聴器のようなものだ」
「はい?!」
ロイが自宅のドアを焼き払って突入した時、家には誰もいなかった。
がらんとした内部の状況に足の先からぞわりと何かが駆け上がり、一気に頭が真っ白になる思いがした。
エドと結婚してから、自宅は「暖かい」というイメージしかなく、
灯された玄関の明かりや夕食の香り、そして何よりも妻の迎えてくれる声と笑顔。
そんな「暖かい」ものが何一つ無くなった空間は、
結婚前に戻ったという雰囲気なのではなく、まさに恐怖の対象であった。
一階に人の気配はなく、この時間にエドがいるだろう寝室を目指して駆け上がる。
心臓は早鐘を打ちながら、嫌な想像ばかりを掻き立てるがそれを必死に抑えながら、
妻が寝ているだろう寝室のドアを乱暴に開く。
「エディ!!!」
僅かな望みだとしても願わずにはいられなかった妻の姿は、
その寝室に見つけることができなかった。
ロイは布団を跳ね除けた後で、ボスリと対して抵抗のないベッドに拳を立てる。
と、そこで何やら音に気付いた。
ガーガーとしたノイズが響き、僅かながら声が聞こえる。
「・・・男の声?」
ベッドではない場所だ・・・どこだ?
ロイは感覚を研ぎ澄まし、視覚を閉じて、聴覚に集中する。
外ではハボックが遅れながら駆けつける軍靴の音がする・・・いや、それではない。
ゆっくりと音のする方に歩き、近づいていく。
どこだ・・・これは・・・この音は?
『ガーガー・・・・・って・・・・・』
「エディ!!!」
ドアの裏側!そこだ!!
ノイズの合間から、確かに妻の声が漏れた。
聞き逃すはずも、聞き間違えるはずもない。
この世でただ1人愛した女の声だ。
「・・・・つまり、その発信機でここの場所が分かったんスか?」
「あぁ、さすがに私の妻だ。こんな状況下でこれだけの練成をしてみせたのだから」
「ってか、愛の力じゃなかったんスね」
「しかし、漏れていた声が聞こえなくなっている。犯人に気付かれたのだろう」
「あっ無視っスか?」
「気付いたとなれば妻に危害を加える危険が高くなった・・・・。
しかし、あのヘッセとかいう奴・・・ふふふっよく燃えそうだ!!!!!」