妻の残した練成物の示すままに導かれたのは薄暗い場所に立つ倉庫。

それもまた軍が所有している軍備収納用のものであった。

 

端々に従軍の香りを匂わせる犯人に苛立ちながら、ロイは建物の周りを固めていく。

 

入り口はもちろん、内部の構成や建物の周辺についての報告を受ける。

小高い丘のようになっているその周辺は木々が茂り、半径三キロ内に住居はないという。

 

まぁ、軍が所有している倉庫の周りに居を構える者などいないということだ。

いつ戦争にでもなれば、ここから人殺しの道具が運ばれるのだから・・・と少しだけ顔を顰めながら、

ロイは周辺地図を見下ろした。

 

 

妻の練成した盗聴器の声を聞く限り、ヘッセに仲間はいないだろうことが分かった。

やり取りからして、手足を拘束されている状況にあり、またこちらが既に情報を掴んでいることも

相手に知られてしまっている。

 

 

「どう動く・・・か」

 

 

犯行声明に書かれていた文は、

「我々は次なる報復を用意している。要求が果たされない場合、金色の太陽の安全は保証されない」

というものであった。

 

しかし、彼は報復と名の通るようなテロを起こしてはいない。

ましてや、要求さえも突きつけてはいない。

 

何を企んでいるというのか。

 

 

「准将・・・やっぱりあいつらとは別の組織みたいっス」

 

「そうか・・・」

 

 

小物であったテロの実行犯どもの自供した内容と照らし合わせてみても、

ヘッセとの繋がりは見て取れない。

 

大体軍に配属されたのは随分と前のこと。

この誘拐事件を起こすために軍に入ったとなれば、かなりの年月を費やした計画と言える。

だが、その結末はやけにあっさりしたものになるだろう。

 

 

報復も要求もなされないままの誘拐事件。

 

 

「准将・・・・この在籍記録を見てください」

 

ホークアイが年表を記したような書類を手渡す。

それはヘッセが入隊してからの記録をまとめた物であった。

 

 

「・・・・・これは・・・・まさかっ!!奴のねらいはそれかっ!!」

 

 

くしゃりとその書類の端を握り締め、

暗闇に覗く倉庫の輪郭をぎっと睨みつけるようにしてロイは立ち上がる。

 

 

入隊時期はエドワードが国家錬金術師の資格を取得したのと同期。

そして、彼は東部の出身であり、土地の条件を考えればエドワードを知っていたとしてもおかしくない。

 

 

奴の狙いが、エドワード自身だとしたら?

 

 

「・・・・だから、外部の通信機器だけを破壊・・・したんスか」

 

 

こちらがエドワードに注意をする前に、通信機器を破壊し外部との連絡通路を断ち切った。

それ以前に多発したテロとその犯行声明。

それに便乗した犯行だと考えれば、すべてに納得がいく。

捕まえてみれば小物の集団だったテロ実行犯は、それ故に内部の構造がバラバラで統一されていなかった。

統一されていないという事は、他のものが紛れてそれを笠にしての犯行が可能だということだ。

 

 

 

「この為だけに、軍をも利用したということか!!」

 

 

 

要求がエドワード自身だというならば、迂闊に手を出す事ができない。

追い詰められた犯人が何をするか分からないからだ。

 

こちらが飲める要求を突きつけていない以上、踏み込めばどうなるか。

 

 

「拳銃の所持は?」

 

M629の44口径を所持している模様です」

 

 

ロイの近くには見知った顔の部下しかいない。

ここには信頼できる部下だけを配置し、その作戦会議を行っている。

 

 

軍内部には信用できないと思う部分と、信用しなければ身動きが取れない部分とがある。

ロイはいま当にそれを突きつけられている気分がした。

 

 

あの倉庫の中で最愛の人に銃を向けているかも知れない者も軍人。

 

 

ロイは顎に手をやり、目を閉じる。

 

 

倉庫にあるのは軍の兵器だ。

内部にいるだろう妻は動けない状態、もしくはそれよりも悪い状況に陥る可能性すらある。

犯人は軍属。

銃を所持し、またこの倉庫を立てこもり場所に設定したぐらいだ、

倉庫に何があるのか、また訓練によってそれを使いこなす事ができる人物。

 

 

下手をすればここだけではなく、半径3キロ離れているとはいえ、民家もある。

 

頭にちらつく多くの事態。

 

 

 

「准将・・・・簡単なことっスよ」

 

「えぇ、そうね。簡単なことだと思いますよ」

 

 

ハボックはいつものように煙草を咥えて、ホークアイは手にした書類を捲りながら、

銃を構えたブレダも、敬礼をしてみせたファルマンも、無線に手をあてたままのフュリーも頷く。

 

 

 

「信じればいいんスよ」

 

「他でもない貴方の奥様を」

 

ロイエド子