外の状況とこの建物の状況が分からないというのがエドにとってのネックだった。
分かるのは外に軍が待機していることから、周囲に民間人はいないだろうということぐらいだ。
発信機と盗聴器に近いものを急遽練成してみたが、それが上手く機能したのかどうか。
夫が来ているので発信機としては機能していたのだろうか。
盗聴はどうだろう?少しでも声が漏れていれば内部の状況を伝えることが可能だったろうか。
外部の音を拾えるものを練成しようかとも思ったが、
こちらがそのようなモノを練成していると犯人に気づかれることは控えねばならなかった。
「なぁ・・・お前の要求は何なんだ?」
相手に気付かれないようにして、エドは小さく喉を鳴らした。
「貴女の開放ですよ。エドワードさん。
どのような弱みを握られてしまっているのか分かりませんが、私が助けます」
ニコニコとヘッセは続けた。
「あぁ・・・外にもう出られないかも知れませんね」
カチャリとヘッセは銃を握り直す、もうその顔に笑顔以外の色は見えない。
「どうする気なんだよ・・・」
「どうしましょうか」
どのくらい昔か分からないけれど、こんな奴を相手にしたことがあった。
ニコニコと顔は笑っているのに、空気は冷たく冷えている相手。
現実世界と切り離された場所に心を置いて、きっと奴は正しい現実の判断ができないでいる。
冗談じゃない。
目の前の男が手の中で遊ばせている銃になんて撃ちぬかれるわけにはいかない。
それだけは出来ない。
あの人の肩には沢山の責任とか命とかが重く圧し掛かっていることを知っている。
もうこれ以上、あの人に苦しい顔をさせたくない。
だから、一緒にいることを。
一緒にいることが出来る方法を見つけたというのに。
そのために、彼が身動きできない状況をつくり出してしまっているなら、
自分はそこから逃げ出さなければならない。
「俺は逃げるから」
エドワードは1つに括られていた腕を無理やりに動かす。
荒い縄は鉄の柱と擦れて熱を発し、きつく縛っている腕に食い込む。
焼けるような熱さと引きつるような痛みに目を細めながらも、エドは腕を地面に当てる。
エドワードの声に顔を向けたヘッセが気付いた時には、
あたりに眩いばかりの青白い練成光が満ちて、ガラガラと大きな音が倉庫中に響いていた。
「エドワードさん!!!」
ホコリが煙のように立ち込めるその先をヘッセは見つめた。
その先に・・・・エドワードは。
いた。
「・・・・うっそ」
まさか、こうなっているとは思っていなかった。
声の感じや暗いながら外の月明かりの様子などから、エドワードは自分のいる場所を倉庫の一室。
それも一階だと判断していた。
「あの馬鹿・・・でかい声でしゃべりすぎなんだよっ」
捕まれば腕を拘束されるかも知れないことは予想できたことで、
用心のために爪に錬成陣を用意していた。
物質破壊のその構築式によって腕を拘束されながらもどうにか壁を崩すことに成功し、
一緒に破壊した鉄の柱から抜け出し、外に逃げようと・・・思った。
しかし、破壊してみれば自分のいる場所は外を高く見下ろす位置。
自分がまだ機械鎧の足であったならば、そちらに体重を掛けて飛び降りることも出来たかも知れない。
けれど、今は生身の足を持ち、この高さから飛び降りることは難しいだろう。