「エディ!!」
突入の為の準備を進めていたところに、大きな破壊音が響き渡った。
銃を構えていた兵士もその煙が舞う先を見つめた。
ロイは音の中に青白い錬成光を見ると、それを行ったのがエドであると確信した。
パラパラと崩れていく壁の向こうにぼんやりとだが金色を見つけ、その大切な人の名前を叫ぶ。
たとえ周りの色がモノクロの世界になってしまったとしても、
妻を思うだけで鮮やかな金色だけは自分の瞳は映し続けるのではないかとロイは思った。
妻の錬成物から情報が途切れた後、「大丈夫だ」と言い聞かせながらも最悪の事態は常にあった。
相手は何年もかけてその地位を確立し、そして計画を実行した人物だ。
思い通りにいかないと分かった時点でどのような方向へ走り出すか分かったものではない。
だから、自分の目で妻の、最愛の人の姿を捉えた時は心の靄が晴れるような気さえした。
「なぁにやってんだ!!!この馬鹿野郎!!!!」
との妻の絶叫を聞くまでは、感動の再開をしたかのようだったのだ。
少なくともロイにとっては。
エドは舞い上がったホコリの先に青い軍服の集団を見た。
一階だと思っていたはずの倉庫を見上げるようにして立ち尽くしている集団を。
その中のおよそ中心部分に見慣れた黒い頭を見つける。
その相手が夫だと分かり、ほっとしたのも束の間。
今自分が置かれている状況の主な原因が彼であると怒りが再燃する。
「何のために錬成して中の状況を知らせていたと思ってるんだよっ!!」
もちろん自分が捕らえられた事は失敗であったし、エドは自分の責任だと思っていた。
しかし、軍人、しかも司令官であるはずのロイが現場で大声を出すなど間違っている。
錬成が上手く行っていなかった場合も考えたが、それならば慎重さが増すのが当然だろう。
「なっ!!確かに発信機と盗聴器でこの場所の特定はされたが、
大体なぜ君が捕まっているのだね。あぁもう心配だったのだよ!!
寿命がどれだけ縮んだと思っているんだい。ただでさえ、君より年上なのに!!」
倉庫の上からホコリを被った妻に激怒され、ロイは戸惑った。
しかし、こちらだって必死だったのだと弁解なのかコンプレックスなのか分からない言葉で応酬する。
「あぁん?あんたは殺したって死なないよ。
第一、俺を残して死ぬはずないだろ?あんたが死んだら浮気してやる!!」
「エディ!!!なんだい浮気とは!!
私に満足していないとでも言うのか?こんなに愛しているというのに!!」
「ばぁ〜か!だからあんたは死ねないって言ってんの!!
俺だってロイ以外の相手に愛してるなんて言う気なんて無いんだからなっ」
「あぁ・・・と大尉?何なんでしょうこの状態は」
唖然とした兵士を横目に、ハボックはガシガシと頭をかきながらホークアイに話かけた。
「緊張感なんて微塵もないわね」
長年の部下以外の耐性のついていない者達は、まさに石のように動けないでいる。
突然始まった上官(それも結構自慢の、地位が高く、カッコイイ錬金術師と評判)と、
捕らえられこれから救出するはずの上官の妻の痴話げんか。
しかも、その内容は「お願いです。家でしてください」という内容。
ようは惚気だ。
辺りが「もう帰ってもいいんですか」な雰囲気になった。
しかし、エドの後ろにいる1人を除いて。