「えっあんたも東部の出身なのか?」
警護を引き受けたというルードア・ヘッセ伍長を夕飯に誘ったが、
自分のような者がまして将軍職の奥方と食事を一緒にするわけにはいかないと断るために、
まぁそれでもと皿によそった夕飯を庭にまで持っていった。
玄関口にはすんなり入って来たくせに、ヘッセはリビングに上がることは無かった。
月と灯篭が明かりとなっている庭には木製のテーブルが置いてあった。
それはガーデンパーティーや月見酒をするために必要だろうとロイが用意したものだった。
エドは軽くテーブルの上を拭いた後で、パサリとテーブルクロスをかぶせ、チキンやサラダを運ぶ。
ロイの為に作った夕食だけれど、ヘッセの話によれば帰るのはいつになるか知れない。
自分ひとりで食べるにも味気ないその料理を食べてもらうことにしたのだ。
並べられた食事を前にして、ヘッセは恐縮したように身体を小さくしていた。
「さぁどうぞ」とエドが勧めた後も何度か断ろうとしたが、それも失礼だと思ったのか小さく頷いた。
ヘッセが「恐れ入ります」とパンとシチューを口にしたとき驚いたように目をパチリと動かした。
そして、「田舎の味に似ています」と今までの緊張が嘘のように笑った。
「田舎?」とエドが聞き返すとヘッセは「すみません、決して愚弄した訳ではなく」と焦りながら、
わたわたと手足を動かした。
聞けばヘッセは東部の出身なのだと言う。
それを聞いて今度はエドが目をパチリと動かした。
「えっ?俺も東部出身なんだ。どこ?」
「そっそうなのですか?・・・そういえば、マスタング准将は以前東方司令部にお勤めでしたね」
「あぁ、そん時に会ったから・・・って、それはいいんだけど」
エドは急にロイのことを話しに出されて、照れたように笑った。
まぁ、その時の出会いは良いものと言い難いけれど、あの出会いがなければ自分はどうなっていたか知れない。今となってはあの時リゼンブールに現れたのがロイであって本当に良かったと思っている。
「自分は東部のチェリスという村です・・・東方司令部からも随分と遠いのですが」
「チェリス?1つ向こうの村じゃんっ!!俺、リゼンブールなんだ」
「そうなんですか?あぁ、リゼンブールには駅があるから羨ましかったんですよ」
「おぉ分かるっ!!俺もチェリスにある映画館が羨ましかったんだよなぁ」
昔の記憶を手繰りよせれば、隣村の友達も確かにいたのだ。
チェリスとリゼンブールは割りと村が隣接している。そのために「どちらがより田舎か」という話で、
子ども達は対決したものだった。
リゼンブールには駅があり、駅を利用するためにはチェリスの村人はリゼンブールにまで来なければならない。しかし、チェリスには小さいが映画館があり、流行の映画(中央では既に終了していたが)を見るためには、リゼンブールからチェリスに向かうのだった。
意外な接点に、エドとヘッセは顔を見合わせて笑った。
そこから話は盛り上がり、「あそこの店を知っている」だとか「村境の泉の話」だとか様々な郷土の話を持ち上げては笑った。
「リゼンブールと言えば、マアサおばさんのアップルパイは最高ですよね。知っていますか?」
「あんたそんな事まで知ってるのか?」
「えぇ、甘いモノが大好きなんですよ。二度ほど買いに行きましたが、絶品ですよね」
エドが祖母のように思っている女性のことを話されてうれしくなった。
身内を褒められるというのは理由もなく嬉しいものだ。
「彼女も小さな坊やを亡くしてお辛かったでしょうが・・・あのアップルパイは皆を笑顔にしますね」
「あぁ・・・そうだな。マアサおばさんはとても明るい人だから」