カタンと階下から音でエドはすっと目を開いた。
風がいつもと違う夜だ、もともと深く眠ってはいなかった。
明かりを付けないままでベッドサイドに置かれている時計を手に取れば、
寝室入ってから三時間ほど経っていることが分かる。
「では、私は警護に入ります。夕食ごちそうさまでした。」
と丁寧なお礼とともに庭先でヘッセと別れたのは四時間ほど前ということになる。
一番先にニュースでテロの報道が成されてから夫が軍に泊り込むようになった頃、
そして、犯行声明が届いた時間などを考えれば、夫のことだそろそろ事件解決に辿り着くだろう。
ヘッセが言っていた「警護の必要性」を考えれば、
逆境に立たされたテロ実行犯の矛先がこちらに向くのもそろそろだろう。
軍将校の守られるだけの奥さんというのはいささか不本意である。
それは、ロイの奥さんと呼ばれる地位になったからといって、
守られるだけの自分ではいたくないという思いがあるからだ。
確かに、軍属として戦いの中に身を置いていた頃の自分とは違う。
がむしゃらに傷など気にも留めずただ走っていたあの頃とは違う。
自分は心配してくれる大切な人がいる。
夫を心配させることは本意ではない。
大切な人だから、自分の傷を本当に辛そうに見る人だから。
そんな顔を見るのが辛いと思う。
「でも・・・ロイにだけ戦わせようとは思わないし、
ただ守ってもらおうとも・・・思わないんだよ・・・な」
エドは被っていた布団の中からゆっくりと起き上がる。
解いていた髪を簡単に括り直し、シャツだけだった上着にズボンを履く。
トントンとゆっくりと階段を上ってくる足音が聞える。
足音というほどはっきりしたモノではなく、気配が近づくと言ったほうが適切かも知れない。
つまりは、ある程度の訓練を受けたものの足音ということになる。
夫ではない。
エドはベッドを降りてドアの端に近づく。
鍵をかけたところで蹴破られればそれまでだ。
相手も分からないままにこちらから仕掛けるのも危険だ。
「まぁ俺も大人になったってことか・・・」
声に出さないままでそう思いながら、いよいよ近づいてくる気配に小さく息を呑む。
キィとドアがゆっくりと開かれる。
ベッドは人の形に練成された綿がこんもりと盛り上がっているし、
侵入者はそちらに目を奪われているようだ。
すぅと息を吸う。
心を落ち着かせて、以前の感覚を取り戻すように前を見据える。
さぁ、犯人とご対面しようか。