「可愛いね〜姉妹かな。皆きれいな金髪で。」

 

真夏の日差しはヒリヒリと肌を焼いていく。暑い暑いと言いながら人は、さらに灼熱の砂浜を目指す。中央から一番近い遊泳場は今日も大賑わいである。

右も左も肌を露出した老若男女がきゃらきゃらと笑い声をたてて過ぎていく中で、一際目立つ三人の美少女。

金色の髪を肩に長く降ろした一人を中心に、肩口ぐらいまでの金髪の二人が横に並んでいる。

三人ともよく似ており、血縁者であることを物語っているが、中でも短い髪の二人は瓜二つとはこのことで、双子であることが分かる。

 

その容姿が違っているのは、一人は琥珀か太陽を模した美しい金色の瞳であるが、

双子と思われる二人は夜闇を溶かし込んだような漆黒の瞳をしていたことだ。

しかし、どちらも美しいことに変わりなく、引っ切り無しに男たちの視線を集めることとなっていた。

「ねえ、一緒に遊ばない。」

 

貼り付けたような笑顔を向ける男に、双子はまたか。とため息をついた。

 

「だめよ。だめだめ。私たち、ここで待ってなくちゃいけないから。」

「そうそう。早く離れた方がいいよ。」

 

そんなことを言われても、声まで可愛い少女に、頬を膨らませて言われたとして、

それは逆効果にしかならない。

 

「待ってるって、誰もこないじゃないか。俺ら、地元だから穴場とか知ってるし、上着なんて脱いで遊びに行こうよ。」

 

全く怯むことのないナンパ男たちは、少女たちが着ている白い上着を脱ぐように促す。

チラリと見える白い生足は、めったにお目にかかれない美しい造形をしており、男の心拍数を急上昇させるには十分な効力を持っていた。

隠されているというのも良いものなのだが、見たいという欲望には勝てない。

もう、絶対に素晴らしいプロポーションなのは間違いない!と確信が持てる。

 

「ちょっと…。」

 

ねえねえ、とナンパ男の一人が上着に手をかけようとしているのを、横に並んでいた双子は焦って止めようとする。

 

「だめだよ!死んじゃう。」

 

二人の焦りように、病弱なのだろうかとその腕を止めたとき、

 

男たちは今までで一番熱い夏を体験することとなった。

 

目の前を赤い焔が横切り、チリチリと前髪を焦がした。

一瞬何が起こったのか男たちは分からなかった。

 

「パパ!!」

 

少女の可愛らしい声と共に、少女たちが向いた先には、ゴウゴウと音がするのではないかと思うほどのオーラを漂わした男が一人立っていた。

混雑している砂浜であるのに、彼の進む道が開けていく。

 

「何処の誰に許可を得て、私の天使に触れようと言うのだね。」

 

まさに地を這うような声を出して、近づいて来る男に死の恐怖を感じる。

ナンパ男たちは、訳も分からない内に、その恐怖だけを理解して、その場から走って逃げた。

三人の美少女とは離れがたかったが、まだ死にたくはない。

 

 

 「ああ、また逃げた。」

 

なんとなく残念そうな長女の声に、焦ったのは父親だった。

 

「ロっロジー?」

「そうそう、パパが居たら誰も声かけてくれないんだもん。」

そう続けたのは次女で、横でクスクスと笑うのは愛しい妻。

 

「駄目だ!こんな所で声をかけてくるような男など、パパは認めないからな!!」

 

拳を握り締めて、立ち上がるこの男は、二児の父親であり、この国の将軍職であるロイ・マスタングである。

 

「誰だって認める気なんてないくせに。」

 

そう笑うのは、ロイの愛妻で二児の母親エドワード。

子どもが大きくなっても美しさは衰えず、三姉妹と間違えられるのでロイとしては気が気ではない。

 

母親譲りの美しい金髪と父親譲りの黒い瞳を持つ二人の娘は、せっかくの休日であるのにスキンシップを楽しませてはくれないようだ。

 

「パパはママの心配だけしてなよ。マリー行こう。」

 

そう言って長女ロゼッタは次女マリアベルの手を引いて立ち上がった。

 

「あっママこれ持っていて。」

 

二人は勢いよく上着を脱ぐと、エドに渡してその場から駆けて行く。

 

「まっ待ちなさい。日焼け止めを!!」

 

空を切る父親の手など気にもせず、二人は海へと駆けていった。

 

愛しい天使たちの透けるような肌が焼けては大変だと、日焼け止めを準備していたのに車に忘れるという失態をしてしまい、それを取りに行く間、上着を着せてその場を離れた。

しかし、戻ってみれば、その上着を脱がそうとする男が居て、追い払えば、娘たちは逃げられたと非難する。

ああ、泣きそうだ。

結局、日焼け止めも塗れなかったではないか。どうして海になど来てしまったのか。

 

自分の横で、後悔の嵐に襲われているロイを面白そうに眺めていたエドだが、さすがに可哀想になってきた。

どうしてこうも娘に夢中なのだろうか。

一向に子ども離れしようとしない旦那をため息を付きながら立ち直させるために、言葉を贈る。

 

「日焼け止め、塗っていただけますか?旦那様?」

 

上目遣いで、立ち上がったロイを見れば、急に浮上したのか、「もちろんだ。」と日焼け止めを握り締めて、ロイが叫んだ。

真夏の物語