白い壁に素焼きの煉瓦。

庭に咲くのは蒼と紫の夏の花々。

 

まるで飴細工が並んだ夜店のような風景だ。

 

シシリンチューム 

コンボルブルス 

ギリア 

カンパニュラ・アルペンブルー

 

小さな花は夕闇の風にそよぎ、じとりと濡れた背中を冷やした。

 

 

 

 

 

 

 

ネズミが差し出した 一斤のパンの耳

 

 

 

 

 

 

 

 

オレンジ色の髪の少女は質問に小さく目を動かしただけで、

少し苦しそうに息を吐くと、

「一緒に」とだけ、短く発した。

 

 

 

声はまるで彼女。

 

 

 

ツキンと痛む胸を押さえて、たった一つの手がかりとばかりに、

そうして少女の後に続く。

 

 

 

丘を下り、愛しい彼女が大切にしていた幼馴染の家を、

目線だけで辿る少女を見た。

なんだその仕草は。

 

 

無性にイライラとする。

 

君は彼女ではない。

なのにまるで彼女のような声で、

まるで彼女の思い出をなぞる様に、

そうしてそんな目をする。

 

 

 

無言で少女の後を追うと、

夕焼けの赤い光りが少女のオレンジの髪を色彩豊かに染めていくのが映る。

 

 

砂利道を行く少女の髪は後ろに長く伸ばされて、

動く度に緩く左右に揺れていた。

木綿素材の白いワンピースは、ふわりとした印象で、

華美ではないその服は少女によく似合っている。

 

 

少女はサンダルを履いていて、

白い生足が惜しげもなく晒されている。

 

あぁ、あの子はこんな風に足を晒す事なんて一度でもなく、

年恰好もよく似ている目の前の少女のような服も、

決して興味がない訳がないだろうに、着たところは見たことがなかった。

 

 

 

太陽はすでに山に落ちたのに、

それでも明かりだけが薄く残った時に、少女は一軒の家の前に着いた。

村から離れた小さな家で、

白い壁に素焼きの煉瓦で出来ていた。

 

家の前には薄い色の夏の花々が植えられて、

水を撒いたのだろうかキラキラと水滴に濡れていた。

 

 

突然、歓喜に溢れた。

 

 

 

嫌な事ばかりが胸を過ぎっていたけれど、

そうだ、彼女がいないなんて、誰も言っていない。

この似ている少女だって、血筋の誰かかも知れないけれど、

それでも「ここ」にはもう1人の他者がいる。

 

 

そう、この花々に水を撒いた誰かが。

 

 

 

急に心臓がドクドクと早くなった。

 

 

 

 

 

「お帰りなさい」

 

 

 

「ただいま」

 

 

 

 

小さな家から響いた声は、聞き覚えのあるものだった。

 

それでも幼さは抜けず、高い声。

 

そうして続けられた。

 

 

「お久しぶりです。マスタング大佐」

 

 

 

そう、聞き覚えはあった。

愛しい人の隣にあった声だった。

 

しかし、見慣れた無骨な鎧は目の前になく、

そこに居るのは少女と年恰好がよく似た少年1人。

 

 

白い手足に短いオレンジ色の髪。

恭しく頭を下げる仕草は、鎧の時と同じだった。

 

 

 

「アル・・・フォンス君・・・なのかい」

 

「はい。この姿でお会いするのは初めてですね」

 

 

 

元に戻れたのかい。

そう言おうとして、言葉は口からすべり落ちた。

 

 

これが元通り?

 

 

『アルフォンス君の髪は君より濃い金色なんだね』

『あぁ、日に当たるととてもきれいな金色なんだ』

 

 

彼女は言った。

弟の髪は金色だと。

 

 

一度だけ写真も見たことがある。

幼い姿だったけれど、その姿は姉弟だと分かる、

とても似た姿をしていた。

 

 

なのに何故。

 

 

 

彼女に似た少女がいる。

その横に立つ、少女に似た少年。

 

そして、少年は言う。

 

「お久しぶりです。マスタング大佐」

 

 

アルフォンスの記憶を持ちながら、

取り戻そうと願っていた体ではない体を手に入れている少年。

 

 

 

「どういうことだ?説明してくれないか・・・アルフォンス君」

ロイエド子