さぁ何を贈ろうか。

よい子の君たちに。

 

 

 

望んでいた暖かい存在

 

 

 

 

家族が待つ家は心地良く温められており、冷たい風の中、帰路を急いだ自分を柔らかく迎えてくれた。

玄関で出迎えてくれた妻にただいまとキスを贈り、そのまま洗面所に急ぐ。

 

すぐにもリビングに飛び込んで、これまた愛しい娘たちを抱きしめたいのだけれど、

この乾燥に加えて風邪が蔓延している時期の事、

よもや風邪でも引かせては大変とうがい手洗いはきちんと行っている。

 

堅苦しい軍服を脱いで、部屋着に着替えると待ちきれないというようにリビングに向かった。

 

 

 

キッチンにいてもリビングが見渡せるつくりになっているそこには、

まだ幼い娘がキャイキャイと同じ位の背丈であるぬいぐるみ相手に遊んでいる。

 

暖があり、フワリと毛足の長い絨毯で守られた場所に娘がいる。

トントンと音がするキッチンにはエプロンをつけた妻がいる。

 

 

外の冷たさや地面のカツカツという音とはまるで逆に位置しているようで。

 

今まで明かりすら点いていない玄関の戸を開けて、

暖かさのないキッチンから酒だけを無造作に取り出して、

ただ眠るだけの寝室のベッドに疲れのまま埋もれていたあの日々。

 

 

くすくすと笑いが漏れる。

あぁ、あれが自分にとっての日常であったのに。

今の何と幸せなこと。

 

 

娘がこちらに気付いたのか「あぅ」と瞳をあげて声を出す。

フワリとした絨毯に座り込んで、手を伸ばせば娘はテトリと体をこちらに向けた。

まだ上手くハイハイも出来ないような覚束ない状態で、

それでも必死にこちらに向いてくれることが本当に嬉しい。

 

1人がこちらに向いたことに気付いたのだろう、

一緒に遊んでいた1人がいなくなって、きょろきょろと娘は辺りを見回して、

そうして気付く。

 

にぱっと笑顔になって、「うぁぅ」と声を出した。

 

 

娘が2人。

なんて幸せなんだろうか。

 

 

手はまだ小さくて、

ヨタヨタとしたハイハイは本当に覚束ないのだけれど、

何て何て愛しいのだろう。

 

 

 

娘2人を胡坐をかいた自分の足の上にのせて、その暖かさと重さを楽しんでいると、

「なぁにニヤニヤしてるんだ?」と妻が覗き込んできた。

 

 

「こんなに可愛い娘を産んでくれて本当に嬉しいと思ってね」

 

「・・・それ毎日聞いてるぞ」

 

「おや。そうかい?・・・まぁいいさ。本当にそう思うのだからね」

 

 

母親が現れて嬉しいのだろう娘たちはさらにキャラキャラと笑う。

そこには生が溢れている。

 

 

 

「子どもは正直苦手だった。話は通じない、空気を読むなんてさらに出来ない。

 泣くは騒ぐは、食べ物だって1人ではどうにも出来ない」

 

 

突き放すような声ではなく、ロイはゆっくりと静かに声を出す。

膝の上にいる娘たちは言葉を理解することは出来ないけれど、

父親の雰囲気が変わったことに気付いたのか見上げるように瞳を揺らした。

 

 

「・・・・けれども愛しい。こんなにも。

 上手く食べることも出来ないし、粗相もするし確かにきれいなことばかりではないけれど、

 それは生きているということだ。ここに・・・私たちの娘がいる」

 

 

誰かの世話をする自分などとても想像できるものではなかった。

ましてや愛した人とその間に授かった子どもをともに育てていく日がくるなんて。

 

そして、そのすべてが喜びに繋がるなんて。

 

 

「子どもがこんなに無力なのは、親に喜びを与えるためなのかも知れないな」

 

 

子どもを授かり、与える喜びを知った。

愛し愛される関係とは違う喜びだった。

たとえこの愛情が返されることはないとしても、ここに居てくれるそれだけで。

それだけで満たされている。

 

 

神という存在など無意味で、人は選んだ道の中で生きているものだ。

その考えに偽りはないけれど、

この子たちの存在を私は感謝したい。

 

 

こんな愛しい存在を育んでくれた妻がゆっくり娘をその腕に抱き寄せた。

 

「さぁもうすぐクリスマスだ。お父さんがサンタさんになるんだろ?

 どんな贈り物を用意するんだ?」

 

 

 

父親という存在がこれほどにも満たされるものだったなんて。

それを少しでもこの子たちに伝えられればいい。

 

 

さぁ何を贈ろうか。

愛しい子ども達に。

 

 

 

 

ロイエド子