にょろりにょろりと

 

 

 

 

 

「おっエドちゃん〜今日は活きのいいのが入ってるよ!!!」

 

 

商店街の通りを入ったお店の先。

瑞々しい果物は旬の桃が香り、四分の一に切り取られたスイカの赤い表面が夏の風情を醸す。

濃く染められたのれんに白抜きの文字が、生ぬるい風に揺られて動いている。

 

威勢の良い魚屋の主人は、視線の先に金色に跳ねる可愛らしい物体を見つけた。

途端に夏の暑さを忘れて、相手をしていた近所のおばさまを跳ね除けて、その金色を引き止める。

 

その小さな金色は、クルリと表情をこちらに向けて、

纏っていたグリーンのワンピースも一緒に翻り、まぁなんというか育ちのいいお嬢様の様子だ。

 

 

「おっ!!何があるの?」

 

 

見目は大変に可愛らしい女の子なのだが、その実、口を開けばなんとも男の子っぽい。

隣を許した男性に、少しだけ苦笑され、自身も慌てて口を押さえていたので、

どうやらその言葉遣いを直す気持ちはあるようだ。

しかし、それすら可愛らしく映る少女を軽く手招きして店の前に案内する。

 

 

この少女、大変有名人である。

名前をエドワード。姓はよく知られているエルリックの他に、最近新しく呼ばれるものが増えた。

そう、こんな少女という言葉がピッタリの小柄な女性は、

すでに愛を誓い合った男性がいて、その彼も大変な有名人であるので、

その名を話を知らない者は、とにかくこの街にはいないだろうと思われる。

 

 

 

店主が「これこれ」と取り出したのは、

丸々と太り、くにゃりくにゃりと別に除けられた金ダライの中で動きまわるそれ。

 

 

 

「なっなんだよっ!!うっわ・・・気持ちわりぃ・・・」

 

 

「なにっ!!これは今朝上がったばかりの新鮮なウナギで、今では珍しい天然物だぞっ!!」

 

 

店主はその取り出したウナギに全幅の自信があるらしく、

気持ち悪いと感想をもらしたエドワードの声に大きく反論する。

 

 

「うな・・・ぎ?なんだよそれ・・・ってか食えるわけ?それ・・・」

 

 

エドワードは恐る恐るといった感じで、

明らかに店に並んだ他の魚とは違う動き、違う形状のそれをじっと見つめた。

 

 

「食えるも何も、これは高級品で美味なんだ!!夏バテ解消にはもってこいさっ!!」

 

 

「夏バテ・・・本当に聞くの?」

 

 

もとより性格が素直なエドワードは饒舌な店主の言葉にすっかり流されていて、

タライの中をくにゅりと動き続けるそれに段々と興味を持ち始めた。

素直な性格よりもさらに旺盛な好奇心が、未知の生物に対して動いていたのかも知れないが。

 

 

「おうっ良薬口に苦しだ!!形は悪いがこれは疲れた身体にはもってこいだよっ」

 

ことわざの使い方を若干間違えてはいるものの、

店主はウナギの効果についてエドワードに語り、それをうんうんとエドワードも聞く。

 

 

それで、結局。

 

 

一匹お買い上げとなったわけで。

まぁ、その気持ち悪いウナギをさばく事は出来そうにないということで、

「見てろよエドちゃん」と店主はまな板に釘でウナギを打ちつけて、一気にさばいて見せた。

新鮮なウナギと店の奥さんが作っていたタレを分けてもらい、

珍しいものが買えて、さらには身体にいいなんてとエドワードは満足して店を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

時は流れて夕刻。

本日は魚屋店主の頑張りによって、近所から香ばしいタレの香りが漂うなか、

仕事を終えたロイ・マスタングは商店街の中を通り、自宅へと向かっていた。

 

愛しい妻を向かえてから、夜の街に出ることなどなくなり、

今ではすっかり商店街の人と顔なじみである。

その実、「すっかり妻がお世話になって」とか言いながら、夫気分を満喫したいための散歩であった。

 

 

 

「おっマスタングさん!!今お帰りですかっ」

 

ガラガラとシャッターを下ろしながら店じまいをしている魚屋の店主と目が合い、

ロイは挨拶に小さく頭を下げた。

国軍将官でありながら、この人当たりの良さがまた人気の要因でもある。

 

 

「えぇ、ご主人も今日はもう終わりですか?」

 

魚屋などは鮮度が命であるのだから、夕刻を待たず早い時間で閉めてしまう場合は多い。

この魚屋は中に小さないけすが用意してあるので、比較的長い時間やっているようではあるが。

 

 

「あぁ・・・おっとそうだ。いいことを教えてあげますよ」

 

「いいこと?」

 

 

店主はロイの顔を見て、ピンと何かにひらめいたのだろう、

ニヤリと笑うと、とととっとロイの傍まで駆けて行き、その耳元で話を始めた。

 

 

「今日は、奥さまにウナギをお買い上げ頂きまして」

 

「妻が?ウナギ・・・を?」

 

 

うんうんと頷きながらも、店主はへへへっと笑う。

 

「実はウナギは夏バテにも大変効果的なんですが・・・・ってことで」

 

「てっ店主!!!それは本当かい?!!!」

 

 

「まぁ、お試しくださいよ」

 

 

 

 

 

 

では、失礼するよと挨拶もそこそこに家路についたロイを、

店主は笑いながら見送った。

遅い店じまいを気にして、中から奥さんの声がかかる。

 

 

「あんた何やってんだよっ!!」

 

「いゃ〜さ、マスタングさんにウナギの効能って奴を教えて差し上げたんだよっ」

 

「・・・・・・・あんたって人は本当に野暮な人だね」

 

「何いってんだっ!!夫婦ってもんはなぁ!!」

 

「いいからっさっさと店じまいしちまいなよっ・・・・まったく・・・・。

 男ってもんは・・・・・・・・エドちゃんが心配だよ・・・・私はさっ・・・・・」

 

 

 

 

 

ウナギ・・・滋養強壮、体力増強・・・まぁetc

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ロイエド子