くるりくるり
ふわりふわり
表現の暖かいものばかりを
ここにいっぱい詰め込んだようだ
「もっもう一度回って見せてくれないかい」
リビングには大きな箱と綺麗なラッピング紙。
真っ白いリボンがヒラヒラと投げられている。
すでに飽き始めた娘2人は「「え〜またー」」と声をそろえて、
白いリボンが気になるのか、手に持って遊ぼうとしている。
「もう一度だけ!!」
父親の勢いに負けて、白いリボンで演技をするようにしてクルリと回って見せた。
フワリと白い螺旋が揺れて、2人の服が反転した。
金色の髪を上の方だけ結んで、残りは肩に流している。
結んだリボンは豪華なフリルがたくさん付いていて、一目見て高級品だと分かるそれ。
そして、服は。
ポンチョのように被る上着の裾にファーがつけられていて、
胸元は同じ毛で出来たボンボンのリボンがある。
上等な生地で出来ているブラウスが上着の裾から見えて、
袖口はゆったりとしたつくりでレースがついていた。
スカートはふんわりと長く、何層にもなっており、
上着よりも少しだけ薄いピンク色をしている。
アクセントに黒い糸で飾りが施されているのも可愛らしい。
ロイ・マスタングは出張から帰ってきたばかりであった。
3日ほど愛する家族と離れなければならない将軍職の男は、
悲壮感漂う顔で出張先へ向かう列車に乗り込んでいた。
部下たちはため息を吐きながら、その光景を見届け、
それでも「くれぐれも頼む」と言い聞かされた上司の遺言のような言葉を守るために、
国家錬金術師の資格を有した司令官の若妻と、
可愛らしい2人の愛娘の護衛を行った。
ロイは出張中も気が気ではなく、急いで仕事を終わらせ家族の待つ家に
帰らなければならなかった。
というよりも、その使命感にただ燃えていた。
歩くことすら煩わしいというように、巡察を早足で行っている時に、
ふと目に留まった店があった。
「ここは・・・繊維の街だったか」
手渡された街の産業に確かそんな事が書かれていたようにも思う。
ショーウィンドウには可愛らしいフリルたっぷりの服や、
シックなデザインのドレスが並んでいた。
「・・・・店主、ここは子供服も扱っているのかね」
急ぐ足を止め、白い外装をした店のドアを開ける。
出てきた初老の男性と、
この店のデザイナーか何かだろう若い女性にロイは尋ねた。
「ならば、2着ほど頼みたいのだが」
運良くその注文をしたのは出張1日目。
終了日にその店に行けば目的の服は用意されており、
その出来に満足した。
その足で列車を乗り継ぎ、駅からは迎えの車で直接家へと帰って来たのである。
目指すのは我が愛しの家族。
「ただいま、エディ!!ロジー!マリー!帰ったよ」
勢いよく扉を開ければ、額にカチャリと冷たいものを当てられた。
「あぁ、失礼しました。お勤めご苦労さまです」
その声は、家族の者ではないが、
その家族よりも長年傍で聞き続けた声であった。
「それでは失礼致します。奥様は買い物に出かけておられますので」
彼女は愛銃を戻し、そのまま玄関から出て行った。
どうやら「くれぐれも頼む」という言葉通りに護衛をしてくれていたようだ。
あれではどの強盗であっても太刀打ちできないだろう。
・・・自分でさえ、鷹の目には逆らえないのだから。
「パパ〜おかえりですか?」
「おかえりですか?」
玄関にテトテトと足音が響き、愛娘が走りよってきた。
その可愛らしさといったら。
両手を広げて腕に抱きこみ、額にキスを贈ってから「ただいま」と言う。
くすぐったそうにきゃらきゃらと笑いながら「おかえりなさい」と返してくれた。
妻は買い物に行っているらしいので、
一先ず娘たちにお土産を渡してしまおう。
今なら大丈夫だろう。
「・・・どしたんだ?これ」
護衛だというハボック中尉に家まで送ってもらっていると、
途中でリザさんとすれ違った。何でもロイが帰ったから、護衛を代わったらしい。
「それじゃ」と家まで送った後で、そのままハボック中尉も帰ってしまった。
買い込んだ袋を抱えて、家に帰れば確かに声がする。
久しぶりの声に緩む頬を感じたが直さなくても、まぁ、大丈夫だろう。
リビングに足を向けて・・・固まる。
目の前には、箱が散乱し、綺麗な紙やリボンがたくさんある。
自分が出て行くまでは片付いていたはずの空間に。
そして、2人の娘はふわふわになっているし、
その横で夫は「あぁ」とか「うぅ」とか唸っている。
はっきり言って異様。
「「ママおかえりなさい」」
ともかくふわふわな娘たちは笑顔でこちらに走りってきた。
その声にビクリと肩を震わせたのは夫。
「パパねぇ、くるっとしてって言うのよ〜」
「でねっなんかいもクルってしてあげたのぉ」
そう言いながら、自分の前でもくるりとその裾を反しながら
一回りしてくれた。
「・・・ロイ」
「やっやあ、エディ。おかえり」
空をさまよう黒い瞳は居心地がすこぶる悪そうだ。
この部屋の様子は・・・ロイが根源なのだろう。
とりあえず、娘たちに「服を片付けて、遊んでおいで」と
リビングから出るように促すと「「うん」」と勢いよく返事をしてくれた。
遠ざかってく足音を確かめて、
夫に向きかえる。
すぅと息を吸い込んで。
「だぁから!!あれほど高い衣装はもう買うなって言っただろうが!!!」
「しっしかしだね!これはお土産であって、最近は大人しくしていたし、
これくらいしてもいいだろう?!」
半ば涙目で訴えてくるのはこの国の将軍職。
そして2児の父親。
娘が可愛くてしょうがないらしい夫は(もちろん自分も可愛く思っているが)
娘たちに何でも与えたがった。
その最たる例が服で、ブランドやらに疎い自分に代わって、
何だかんだと高級なものを買い与えたのだ。
シンプルなものは全く気付かなかったが、
レースのふんだんに使われた子供服を見れば高級品かどうかぐらいは分かる。
何となしに聞いた値段に驚いたのは言うまでもなく、
その声に夫は驚いていた。
それから決めた約束で、
「服は一緒の買い物で買うこと」
「高いドレスはお出かけの前だけ」という事になった。
それなのに。
「お出かけなんてないんだろ?」
「・・・すまなかった」
しゅんとした夫を見て、ため息を一つ。
複雑ではあるのだ。
自分としても娘たちを着飾るのは楽しいし、
可愛らしい姿を見るのは嬉しい。
その気持ちは変わらない。
・・・まったく。
「・・・明日、どこに行くんだ?」
「エディ?」
「こんな格好させるんだから、特別なお出かけだろう?」
さぁ、お父さん。
約束を守ってもらいましょう。
可愛いドレスは「お出かけ用」に。
フリルとレースがたくさんついた可愛らしい服を着て、
リボンとファーで飾って。
家族で「お出かけ」しましょうか。