「ママって牛乳やーなんでしょ?」

「やーなの?」

 

 

時刻は午後3時。

 

外の日差しも落ち着きを見せ、もう少ししたら干していた洗濯物を取り込もう。

テラスからそよそよと洗濯物が揺れるので、風も少しあるようだ。

 

今日のおやつはプリン。

カラメルを煮詰めて、型で冷やした特製のもので、

型もウサギやクマという可愛らしいものだ。

 

それを皿に移して、あわ立てたクリームをのせ、

リビングのテーブルには2つ置かれている。

 

お絵かきで遊んでいた娘2人は、手をクレヨンでベタベタにしていたから、

手を洗ってきなさいと促して、

こっそり部屋を見てみれば、盛大にお絵かき帳の域を超えてアートが生まれている。

「・・・・」

大掃除は明日にして、これは父親にも見せるべきか。

「なんて才能だ!!」とか言い出して、保存しようと言われたらどうしよう。

「・・・消すか?」

返事のない疑問を口にするが、その横にパタパタと音を立てて2人がやって来た。

 

「「あらった〜」」

きれいになった手を突き出して、にこにこと笑顔。

金色に染まったツヤツヤと輝く髪をクシャリと撫でて、

「おやつにしようか」と一緒にリビングへと行く。

 

一先ず部屋はこのままで。

 

 

 

2人はプリンを見るとキラキラと目を輝かせたが

「ウサギ」と「クマ」で少々言い争う。

自分としてはどちらも可愛いと思うのだけれど、

それは子どもの感性。

しかも、時として重なる事の方が多いように思う。

 

 

「やっロジーがウサたん!!」

「マリーだってウサたんがいいのっ」

 

涙目になりながら、2人の前をウサギが行ったり来たり。

 

どうするか。

お前も人気無いのは寂しいな・・・「クマたん」

 

「そっか・・・2人ともウサたんがいいなら、半分個するか?

 クマたんはママが食べるぞ〜」

 

娘2人の間で疎外されていたクマプリンをひょいと取り上げて、

出してきたスプーンですくう真似をしてみせる。

 

「やっクマたん食べちゃだめっ!!」

「だめなのっ!!」

 

ガバリと勢いよく顔を上げて、こちらに意思を伝える。

 

「クマたんも2人に食べて欲しいのに・・・どうする?」

 

 

「じゃんけんするっ」

「あっマリーもそう思ったの」

 

きゃあきゃあと重なった考えに喜びながら、

前掛けをして食べる気満々といった状態でじゃんけんが始まった。

 

ぽんぽんとグーチョキパーを出して、

そして決まった勝敗で「ウサたん」と「クマたん」は娘たちに分けられた。

 

ロゼッタは「クマたん」のプリンを頬張り、

マリアベルは「ウサたん」のプリンを頬張る。

 

横で暖かいココアを淹れてやりながら、

美味しそうに食べてくれているその姿に微笑みが零れる。

 

小さな手で一生懸命スプーンを持って、

フルフルと震えるプリンを溢さないようにして慌てて口に入れる。

 

食べることは生きること。

小さな事でもそれは大切な事。

 

この先、この子達がいつもこうして「おいしいね」と言い合える環境にあることを

望まずにはいられない。

 

 

 

「ねぇ、ママ」

 

2人のマグカップにいれたココアをそれぞれ持ちやすいところに置いてやる。

溢してもヤケドしないぐらいの暖かさにしてあるので、

自分で飲もうとしても大丈夫だろう。

 

「うん?どうした?」

 

スプーンは置かないままで、クリームを口の横に付けたロジーが

こちらに向いた。

少し笑ってしまって、タオルでその口をきれいにしてやる。

 

「ママは牛乳やーなんでしょ?」

「やーなの?」

 

マリーまでもこちらを向いて首を傾げている。

 

どうしたことか。

 

「どうして、やーって思ったの?」

「うんとねっパパがね、ロジーもマリーも飲めてえらいねって」

「ママは飲めないんだよって」

 

あぁ、やっぱりロイか。

 

極力2人の前では好き嫌いなんてものを見せないようにしている

母親の努力というものを少しは分かって欲しいものだ。

牛乳。

苦手だとは思う。それはものすごく。

でも、それは成長には必要なものだし、娘たちには飲んでもらいたい。

いやだと言えば考えたが、

ごくりと飲み干すその姿には安心すら覚えた。

 

 

「どうして」と興味に輝く瞳が目の前にある。

これは、娘からの挑戦状なのだろうか。

 

う〜む。

 

 

えぇい!!

これでも母親なんだって!!

 

 

ココアを淹れるために出していた牛乳をコップに注ぐ。

心持ち少なめに入れた事はこの際見逃して欲しい。

 

娘が目を逸らさないでこちらを見ている事を確認して、

一気にその白濁の液体を飲み干した。

 

これでも飲めるようになった方なのだ。

 

「っは!!」

勢いよく止めていた息を吐き出して、

口元を拭う。

 

「「ママえらい〜」」

パチパチと手を叩いて、その様子を喜ぶ娘。

 

どうだ、ロイ!!

その場にいない夫に対して勝ち誇ったような気分になる。

 

「ママどうして飲めるの?」

「やーなんでしょ?」

 

 

鳴らしていた手を止めて、

今度は心配そうな瞳を向ける娘たちに嬉しくなる。

だって。

 

「ママだからねっ!!」

 

 

だってお母さんだもの。

 

あなた達がお腹に居てくれた時に、お母さんは頑張って飲んだんだよ。

丈夫になるからってたくさん飲んだんだよ。

 

だって、元気な姿が見たかったから。

お母さんを選んでくれた事が本当に嬉しかったから。

 

 

これが2人の栄養になるんだって思ったら、

何故か大丈夫だったんだよ。

 

 

好き嫌いはなるべく無い方がいい。

それでも駄目なものは無理しなくていいよ。

 

必要なものは、必要な時に出会えるもので。

 

大切な時に選べればそれで大丈夫。

ロイエド子

お母さんだからね