「はぁ〜」
見るのは右腕。
高く上げればカチャリと金属の擦れる音がするその腕。
幼馴染が作ってくれたそれを決して恥ずかしいとは思わないが、
それでも堂々と見せて歩いていいものではない。
夏の暑さだろうと、脱ぐことの出来ないコート。
冬の寒さには、芯から体温を奪っていく鋼。
その持つ意味は、きっと自分への戒めの一つなのだろけれど。
そんな事を言えば、あの泣き虫の幼馴染は隠れて涙を流すのだろう。
決して他人の前で脱ごうとしなかったそのコートを、
まさか脱いでもいいと思える人に出会うなんて。
この醜い体を恥じた事などなかったのに、
彼に見られるのがいたたまれなくなるなんて。
きっと自分はどうかしている。
彼は、とてももてるらしい。
それはもう大変に。
部下の嫉妬を買う程度には。
そして、どうやら自分も。
本当にどうかしていると思うのだけれど、
彼のことを好きらしい。
自分に焔を付けた人で、
ドロの沼から這い上がるきっかけをくれた人で、
憎まれ口を叩くのに、それでも背中を押してくれる人。
もしかしたら、彼は気付いているかも知れない。
聡いあの人のこと。
上層部さえも手玉に取るほどの眼力を持つのだから、
あの深い夜の闇の色をした瞳は、
きっと自分の思いなどとうに見越しているのかも知れない。
だから、会えない。
今、会ってしまえば、
浅くはなくなっていくこの想いを彼に吐露してしまう。
受け入れられても、受け入れられなくても、
自分は彼から離れられなくなるだろう。
そんなことは許されない。
罪を罰をこの身に背負っているというのに。
カチャリと音がする。
冷たい冷たいこの腕と足は、
彼の瞳のようで、それでいて全く違うもの。
あぁ、会いたいな。
報告に電話もできないよ。
声なんて聞いたらもう駄目なんだろうな。
きっと朝一番の切符を買いに走ってしまうだろう。
あぁ、手紙も無理。
第一、書く言葉なんてこの世に無いもの。
この気持ちを表す方法を持っていないもの。
いつも誰かに言っていた、言ってもらっていた
「大好き」という言葉に
違う意味が生まれたことを今日知りました。
こんなにも痛い言葉だということも、
なのに、心が温かくなっていくということも、
今日知りました。
その中心に、企み顔で笑うあんたしか思い出せないのは
なんとも悔しいけれど、
「鋼の」と呼ぶ声を耳が追っている。
あの焔を起こす指の先を目が追ってる。
あんたの存在を俺が追ってる。
もう一度腕を上げる。
鳴るのは同じ金属の音。
あんたが溶かすことの出来る金属の音。
掴めなくても、手に入れられなくても、
溶かしてしまえるそんな男だったことを、
今日、知りました。
思いの切っ先