ふぁう。

横から眠たそうなあくびをする。

 

おそろいのパジャマにしようといって買い物に出かけたのは、

前日に見た大衆雑誌の影響だったのだろう。

チェックのピンクやプルーのストライプ

どれも肌触りはよい綿素材で暖かく柔らかい。

 

それでも、自分としては

フリルのたくさんついたタイプのものや、

肩口にリボンがある可愛らしいデザインの夜着が好きだった。

 

もちろん着る妻も愛らしいが、脱がす楽しみも・・・また然り。

 

何軒まわって見るも、おそろいで買うとなれば、サイズがない。

・・・あっても親子用となれば、買わないのも道理。

 

散々探したが、お目当てのおそろいのパジャマは買えず、

互いに相手のものを見立てて買うことで合意した。

 

自分は、オフホワイトの生地に、小さく花の飾りがあって、

胸元は赤いリボンが付けられたものを買った。

妻が見立てたのは、同じような生地で袖には折り返しがあり、

赤い縁取りがされていた。

 

まったくのおそろいデザインでは無いものの、

色使いは同系のもので、妻はしぶしぶながら納得したようだ。

 

 

 

カタリと書斎のドアが開かれて、目線を巡らす。

買ったばかりの夜着に身を包んで、濡れたままの髪からの雫が垂れてしまわないように

肩にはタオルが掛けられていた。

金色のそれは、雫を反射させてキラキラと光り、

常よりもさらに彼女の髪を美しく見せた。

 

「仕事?」

「あぁ、明日までの書類があってね」

 

普段ならば家に仕事は持ち帰らない。

軍の機密であることもあるが、

それよりも、家では仕事以上に大切なものを目に止めていたいからだ。

 

妻が寝室に戻ってくるまでに終わらせようと思って手を付けたのだが、

書類の不備や注釈の誤差などによって手間取ってしまったようだ。

 

「もう、終わるからベッドに入っていなさい。湯冷めしてしまうよ」

 

う〜ん。と気のない返事を溢しながらも、パタリと扉を閉めて、

廊下を進む音がした。

 

機嫌を損ねてしまっただろうか。

 

一緒になってから気付いたことだが、彼女は独占欲が強い。

今まではそれが弟に向けられていたのかも知れないが、

大切に思ったものを一番に抱きしめていたいらしい。

 

それはもう、とても嬉しいことなのだけど。

その対象に自分も入っていることが。

 

さぁ、早く書類を終わらせて、

自分が一番独り占めしたく思っている最愛の人を抱きしめに行かなくては。

 

 

 

「ベッドに入っているように言ったのに・・・」

 

書斎から妻の待つ寝室に向かったのは、それから十五分ほど経ってから。

ドアノブを回して、出窓から月の光りが差し込んでいるだろうベッドを見れば、

壁にもたれるようにして、座ってる妻がいた。

 

後ろ手でドアを閉めて、その横に腰を下ろす。

自分が着ているのは彼女と同じオフホワイトの夜着。

 

おそろいでは無いがよく似た色使いのそれ。

 

「・・・また、髪を乾かしていない」

壁と背中の間に手を滑り込ませて、抱きしめようとすれば、

ひんやりとした髪が手に触れた。

 

「・・・・」

 

何も答えない妻の肩からタオルを抜き取って、

その髪を拭いてやる。

 

サラサラとして指を通っていくその髪は、

今は十分に水気を含んでいるからなのか絡み付いてくるようだ。

 

「あぁ、冷えてしまっているじゃないか。

 先に寝てしまってもよかったのだよ」

 

髪を触れられて安心したのか、ふぁう。とあくびを一つ。

口に手を当てるために腕を動かせば、袖口についている赤いリボンと

花の飾りが揺れる。

 

髪は拭き終わったが、水分を含んだタオルを肩に掛け直す訳にもいかず、

洗濯場に持って行こうかと、再び腰を上げる。

 

「あっ」

 

動いた自分の体に、小さな声を上げて抱き付いてきた細い腕が一つ。

重なった夜着の生地は境界が分からないほどによく似た色をしている。

 

「うん?タオルを持っていくだけだよ」

 

乾かされた髪をゆっくりと撫でてやっても、妻はその腕を離そうとはしない。

・・・どうやら本当に独占欲が強くなっているらしい。

いつもはこんな事がないのに、たまに見せる甘えた様子は

自分を嬉しくさせてしまう。

 

 

「エディの体も冷えてしまった事だし・・・もう一度風呂に入ろうか」

 

言いながら、濡れたタオルを手首に掛けて、

腰に回されていた妻の腕を器用に退ける。

床に足を付いて、ベッドに腰掛けていた妻をそのまま横抱きにする。

 

濡れたタオルが真新しい夜着を濡らしてしまわないように注意しながら、

腕に力を込めれば、妻は自分の腕を首に回してくれた。

 

 

そして、ひと言。

 

耳元で小さく。

 

 

「・・・少しだけ。ほんの少しだけねっ寂しかった」

 

 

おそろいの色をした夜着は、別々に時間を過ごすために用意したのではないと。

ともに過ごすその時間を楽しむためのものだと。

だから、寂しかったのだと。

一緒に使った湯のなかで頬を赤くしながら言ってくれた。

おそろいがいいの

ロイエド子