「オススメは」と尋ねたら、「季節のゼリーを」といわれた日
「これお土産だよ」と夫の手には明るいオレンジ色の箱がちょこんとあった。
甘い物が好きなことを、できる限り限り隠そうとしていた旅の時
それで=女性だと分かってしまわないかと思ってドキドキしてしまっていたのだ。
けれど、やはり好きな物を前にすると頬が緩んでしまうのか、
「鋼のは甘いものが好きなのかい?」といともあっさり見破られてしまった。
それは執務室でホークアイ中尉によって出された紅茶とチーズケーキだったのだけれど。
「そっそんなことねぇよ!!」と言って「男なのに甘いものなんて!!」とか誤魔化そうとしたけれど、
「おや?私は甘いものが好きだが?」とパクリとケーキを口にしたロイ・マスタングがいたりして。
そんな仕草に、「男が甘いもの好き」とかでも、別にいいのかなぁとか思って。
それからは、「甘いもの好き」を隠すことなく過ごしていた。
それから随分経って。
特に大佐が甘いものが好きなのではなくて、あの時、自分が隠そうとした「甘いもの好き」を上手く表に出せるように計らってくれての言葉だったのだと気付いた。
まったく、そんなことをスムーズにできる男というのは、やはりいい男なのだろう。
一緒に過ごすようになってから、もっとたくさんロイのことを知るようになって。
それは毎日新たな発見と喜びを与えてくれた。
「うわぁ〜きれい!!」
オレンジの箱を開けると、保冷剤と偏り防止の紙で出来た押さえが見えて、
その中に明るい色のゼリーとチョコレートのケーキが入っていた。
「お皿とスプーン・・・フォークとどちらがいい?」
紅茶を淹れようとしていた横で、カチャリとお皿を出していたロイは、
戸棚を開けてフォークとスプーンの場所で手を止めた。
「あぁ・・・っと、ロイはどっち食べたい?」
「エディが選んでいいよ」
実は、どちらがいいかかなり迷っていて、それで夫に聞いたのだけれど、
夫はかならずこう言うものだから、結局自分で選ぶことになるのだ。
「うぅ〜ん・・・ゼリー・・・っあっ!!やっぱりチョコレート!!!」
「ふふっそういうと思ったけれどね。
・・・・食べさし合いっこするから、どちらも食べられるよ」
では、どちらもいるねとスプーン1つとフォーク1つを準備して、リビングに向かう。
「食べさし合いっこって・・・・恥ずかしいやつ」
コポポと音を立てるティーポットぐらい顔が熱くなっている。
これだから、夫には敵わない。
チョコレートのケーキは、スポンジの間にキャラメルを挟んである生地と、
上部にはクルクルと飾られたチョコレートがあり、崩すのが勿体無いと思えるぐらいだ。
ゼリーはココナッツのプリンがガラスケースの一番下に入っていて、上にはピンク色の桃のゼリーが果肉入りで重なっている。
零れそうになるチョコレートの飾りとスポンジを注意深くフォークに乗せて、
夫の口に運べば、甘さにとろけた顔をむけて「美味しいよ」と言ってくれる。
それにお返しとばかりに、プルリと揺れる桃のゼリーとココナッツのプリンをスプーンに梳くって、
夫が「あ〜ん」とこちらに向ける。
それはもう恥ずかしいのだけれど、桃のゼリーより赤くなった頬で、
素直に夫の持つスプーンを口に入れる。
甘い甘いケーキとゼリー。
それを素直に食べられる今日は、なんていい日なのでしょう。