■ お伽噺の謎解きが始まる ■
エドワードは信じられない話がされていると思った。
だってこんなはずあるわけないではないか。
これはまだ夢なのだろうかと。
ロイがエドワードのベッドの横で語った言葉に、
ひとつの偽りもありはしなかった。
今までの事、自分の事、
遠回りし続けた自分と、過ちを犯してしまったこと。
それについての謝罪と、それがどんな結果をもたらしてしまったのか。
ロイはゆっくりと、誤魔化す事無く、
全てを語った。
自分の声と言葉で。
ロイの口から語られた事は、
どれも全てか、エドワードが願っていても口にすることの出来なかったものだった。
離れていかないで。
一緒にいて。
違う女の人のものにならないで。
声を聞いて。
それはエドワードが「我がまま」だと思っていたことで、
こんな自分にどうしてそんな事が言えるだろうかと。
ずっとそう思ってきた事であった。
「嘘・・・・だってあんたには、奥さんと子どもがいて」
「子どもは私との間の子ではないよ。
彼女も別の人を愛して、互いに幸せになるために、別れたんだ」
「でも・・・あんたは、奥さんを選んだ・・・・」
「あぁ、間違いだったなどと簡単に言えるものではないけれど、
それでも私は、ずっと違う人を心に住まわせていたのだと・・・・。
ようやく気付いたのだよ」
「・・・・・それが・・・・」
「君だよ」
黒い瞳をゆっくりと細めて、
ひどく大切なモノを見るようにして、ロイはエドワードを見た。
その瞳に、泣きそうになる。
嘘だ。
なんて都合の良い夢を見ているのだろう。
こんな夢、早く覚めればいい。
こんなこと。
覚めた後が冷たくて寂しい夢なんて、いらない。
いらないんだ。
エドワードはずっと首を振り続けた。
起き上がれないベッドの上で、
切られた金色の髪が、不揃いに揺れる。
「俺・・・になんて、そんな事いうなよ。
おっ男なのに・・・あんたが・・・・そんな事言うはずないのに」
エドワードは呪文を唱える。
これで【いつもの俺】に戻るから。
俺は男で、大佐となんて釣り合わない。
声に出すわけにはいかない。
一度伝えてしまったら、もうどうにもならないのだから。
だから、ずっと言わないでいるから。
【いつもの准将】に戻ってよ。
「俺は・・・男なんだから」
「エドワード、聞きなさい」
首を振り続けるエドワードの顔に、優しくロイは手で触れる。
不揃いな蜂蜜を溶かしたような金色の髪に、
指を絡めて、ゆっくりと両頬を包み込むようにして、
その動きを止める。
エドワードのぎゅっと閉じられた瞳を困ったようにして見つめ返しながら、
ロイは囁くように、優しさだけを伝えようと言うように、話始めた。
「君がどんな存在だって、ずっと君を見ていた。
私は、とても卑怯だったから、そんな自分に気付かない振りを続けた。
君から遠ざかろうと、愚かにも愛していない人と結婚し、
自分の子どもではない子を・・・・都合がいいとさえ思ってしまった。
けれど、その過ちに気付いた。
・・・・・君を失うかもしないと、そう思った時にね」
エドワードの睫毛が揺れる。
唇を引き結んで、フルフルと首を振る。
腕に包まれて、なお受け入れようとしてはくれない。
「君の隣にいたいと思った。だれよりも君を心配することの出来る位置にいたいと。
・・・・君がこの腕の中で意識を失っていく瞬間がとても怖かった。
離したくないと思った、君がいなくなるなんて・・・・とても耐えられそうにない」
「でも・・・俺は」
「分かっているよ。君には捨てられないものがたくさんある。
そのためにずっと走ってきた事も知っている。
君は君のままでいい。それで構わない。
・・・・・願わくは、君の傍にいることを許して欲しい」
何も天秤に掛けず。
何モノにも惑わされず、流されず。
そんな生き方をしてきたわけではないから。
人は愚かで、醜く、間違いばかりを繰り返す。
しかし、時には愛おしさを。
揺れた時に少しだけ止まる勇気と、
足跡を見ることの出来る心の余裕と。
何より君を愛しいと思うこの気持ち。
これだけで生きていけるなんて、
本当に笑ってしまうような事だけれど。
それでも、そう思ってしまうんだ。