ベッドに入って

両手を顔の前で組んで

眼を閉じて

 

 

「今日の幸せ」に感謝して

「明日もお願いします」と祈る

 

 

それが例え自分の見える範囲の人の事だけかも知れないけれど

それでも祈らずにはいられない

 

 

 

 

 

 

 

 

 

背中だけが記憶に残る愛し方は、

とても美しく正しいけれど、それは悲しいのかも知れない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今日はパパの日なんだってママから聞いた。

幼稚園の先生も同じように言っていて、

だからマリーと一緒にプレゼント用の「パパの絵」(似顔絵)を描くために、

真っ白で大きくて、いつものお絵かき用よりもずっとしっかりした紙を貰ったのだ。

 

クレヨンを持ってきて、マリーと一緒に描いていく。

 

パパの髪は真っ黒。

でも悲しい色でなくて、夜の色だと思うの。

ママの髪の色は私たちと同じ金色だから、お月様。

だから、パパの髪は夜の色なんだと思うの。

 

パパのおめめも黒。

どこかとても優しい黒。

ママを見ている時が一番優しいかも知れないけれど、

ママもパパを見ている時が一番優しそうに見えて、

2人そろって優しそうなのが、私たちと居る時だから、

私はとても嬉しいの。

自分の顔を見ることはとても難しいけど、

皆といる私の顔も同じように優しかったらいいな。

 

 

「ねぇロジー、パパの服は何色がいい?」

「やっぱり青だと思う」

「うん!」

 

 

青の服っていうのは、お仕事の服で、

実はあんまり長い間見ることのない服なんだけど。

朝のいってらっしゃいのキスをする時と、

夕方のおかえりなさいのキスをする時にパパはいつもその服を着ている。

 

前に大勢の人の中で、パパがお仕事の練習をしているのを

ママと一緒に見に行ったことがあった。

すごくすごくカッコよくて。

だから、パパの服の色はやっぱり青だと思うの。

 

 

クレヨンの色は12色だから、

思ったとおりの、パパの色は上手く塗れないのだけれど。

マリーと一緒にいろいろ話ながら、パパの色をつくる。

 

 

 

「ロジー、マリーどうだ?」

 

部屋を小さくノックして、エプロンをつけたママが入ってきた。

まだ完成前だけれど、ママになら見せてもいいかと2人で目配せして、

普段使わない大きな紙を引っ張り出す。

 

「おぉ!!これパパすごい喜ぶぞ」

 

えへへっと得意になって笑うと、ママの白い手が頭を撫でてくれた。

 

 

「買い物に行こうと思うから、ちょっとだけ一緒に行ってくれるか?」

 

「「はぁ〜い」」

 

今日はパパの日だから、

たくさん美味しいものをつくろうなぁとママは言っていた。

まだ洗濯物を入れるにも早い時間だけれど、

きっとママは得意のシュチューをつくるつもりだろうから、

このぐらいの時間でないときっと駄目なんだ。

 

ママと並んで、買い物をする。

ここにパパが居ればもっと楽しいのにと思うけれど。

 

 

 

 

 

私のパパは友達のお家のように、休みがいつも一緒でない。

だから、学校が無い日にどこかに出かけられるのは休みが一緒になった時だけだ。

それと、あまりパパには休みがないのだ。

 

 

ママは「パパのお仕事は、この国が幸せになるように頑張るとても大変な仕事なんだよ」と、

私たちに教えてくれた。

 

 

練習で多くの人に拍手されているパパはカッコよくて、好きだけど。

ねぇ、ママ。

でも私、家にいるパパが一番好きだよ。

 

 

パパの仕事はとても大変なんだって。

ママからも先生からもそう教えてもらった。

だから、いろんな人にパパの事を話しては駄目なの。

知らない人にもとても気をつけないと駄目なの。

 

そして、エリシアおねえちゃんからもパパの事を聞いた。

 

 

 

それはママからも先生からも聞いた事のない話で、

ちょっと難しかったけれど。

 

 

 

『私のパパもね、軍人さんだったの。

 でも、居なくなってしまったの・・・死んでしまった。

 大好きなパパに、「行ってきます」と「行ってらっしゃい」はきちんと言ってね。

 ここに帰ってきてねって』

 

 

 

死ぬって事はあまりよく分からないけれど、

居なくなるって事はとても悲しいことだと思ったの。

 

 

ママが「行ってらっしゃい」を言う時は、

とても心配そうな目をしているの。

そんなママに「行ってくるよ」というパパはちょっと困ったような顔をしている。

 

パパが「ただいま」と言って帰って着た時の、

ママの「お帰りなさい」はとても嬉しそうで、でも少しだけ泣きそうな顔をしているの。

その時もパパは少しだけ困ったような顔をしている。

 

 

もしも。

もしも、この「行ってらっしゃい」で、パパが居なくなってしまったら。

 

そう考えると、私もとても心配になった。

だから、その日は一日中電話の音が怖かったし、

カチカチ音を立てる時計をずっと眺めていた。

 

 

『さぁ、パパは少し遅くなるから、先に寝て・・・ね?』

 

ママに言われて、嫌だと首を振る。

 

 

だって、ママ。

私、まだパパにお帰りなさいって言ってないもの。

 

 

「お帰りなさい」は「帰ってきてくれてありがとう」

 

 

ママは少しだけ困ったパパと同じような顔をして、

「パパは必ず帰ってくるよ。・・・心配だけれど、こんなに可愛い娘が待ってくれているからね」

と言って、マリーと一緒に2人をぎゅっと抱きしめてくれた。

 

「でも、パパは2人が寝てないときっと『大変だぁ』って思っちゃうから、

 ママに任せて、ここは寝てくれると嬉しいな」

 

「ねぇ、ママ。パパを待っているの怖いでしょ?」

「ロジーもマリーも一緒にいてあげるよ?」

 

ママは泣き出しそうに笑って、

ありがとうと言ったけれど、その気持ちだけでママは頑張れるよと言った。

 

 

 

ママに布団をかけて貰っても、マリーと2人の部屋で眠たくはならなかった。

 

 

「ねえマリー起きてるでしょ?」

「うん。ロジーも起きてるね」

 

 

「いい事を考えたの。聞いてくれる?」

「なになに・・・いい事?」

 

 

よいしょと掛かっている布団を丁寧にはぐって、

マリーと顔を向ける。

部屋は暗いけれど、これはパパの色だから、怖くなんてない。

 

 

「こうやってお祈りをしよう」

「お祈り?」

「うん・・・パパが帰ってきますようにって」

 

 

 

真っ暗なお外と光る月にお願い。

 

 

 

「パパが帰ってきますように」

「ママが泣いたりしませんように」

「今日一日の幸せに感謝します」

「明日もよい日でありますように」

 

 

 

 

 

「ねぇ、ママ。今日はパパ遅くならない?」

 

「そうだなぁ・・・早く帰るよって言ってたよ」

 

 

シチューの野菜を選んでいるママはとても楽しそうだ。

そうだね。ママ。

パパはいつも帰ってきてくれるもんね。

 

 

 

 

大好きだよ。パパ。

ずっと一緒にいてね。

 

 

 

パパの「ただいま」に皆で「お帰りなさい」と言って。

ママの自慢のシチューで夕食。

いつもは使っていないランチョンマットとお皿がきれい。

 

食後のデザートにパパが買って来てくれたケーキを準備している時に、

マリーとこっそりプレゼントを持ってくる。

 

 

「「パパいつもありがとう。大好きだよ」」

 

 

広げた画用紙はとても大きくて、

パパは少しだけびっくりしたようだけれど。

すごく嬉しそうな顔をして「ありがとう」と言ってくれた。

ロイエド子