毎日が忙しく過ぎていくそんな時に、一本の電話が回された。
自分はもう直通で電話を受けるような立場ではなく、直属の部下である彼女もまたそうであった。
しかし、なぜか彼女がつなげた電話があって、不思議とそれが当たり前かのように自分も受話器を上げた。
「大佐。俺の子どもが生まれたよ。」
エドワードが自分の下から離れて五年が経っていた。
そして、彼が念願を果たしてからは七年の時が経っていた。
人体練成の成功後、直ぐに国家錬金術師の資格返上を求めた彼だったが、
優秀な錬金術師である彼を軍は離そうとしなかった。
実際、離したくないと感じていたのは自分も同じで、彼が離れて行くことは耐えられないと思った。
狐と狸の騙し合いのような二年間の交渉の結果、
研究の成果を軍が買い取ることを決め、軍事的な介入として利用することを今後一切しないことで合意した。
彼は生活の全てから軍を阻止しようとしたが、
それは許されず、錬金術師としての能力を軍に提供する形となった。
交渉のその二年間で彼は故郷リゼンブールに自宅やら
病院やらをまったく軍には気づかれないままに建設していた。
彼が軍の狗として稼いだその研究費は長い旅生活の割に使われておらず、
国家錬金術師ではなくなるものに、研究費用は必要ないと軍は回収することを決定していた。
それにも関わらず彼が軍を去るころには、その預金はわずかな小銭以外使われていたのだった。
彼は軍の思惑を見通していたのか、軍がもたついている間に、彼は故郷を豊かにした。
それでも幾分かの金が残っているのではないかと聞いたものの、
ロックベル家への支払が残っていたからと返された。
現金の確保も十分であるだろう。まったく隙のないことだ。
銀時計を黒の頑丈な机の上にジャラリと置いた。
この金色の子どもは、
自分の未来を自分で切り開いてきた。
それは、まさに文字通りであり、
右腕と左足を機械鎧で補い、寝食を忘れて知識を渇望していた。
その姿は、酷く自分の琴線に触れた。
悲しいとか、辛いとかそんな感情ではなく、ましてや同情などといったものでもない。
胸の奥、息を深く吸い込むその部分が悲鳴をあげるような、そんな深い痛みが走る。
執務室にいるのは彼と自分の二人だけ。