左手に魂と
右手に純潔と
それだけが貴方に捧げられるものだっただろうか
ねぇ、泣かないで。
こんな私の為に泣いたりしないで。
貴方が強い人だと私、知ってる。
だから、大切な人たちを誰よりも愛して、守っていたのよね。
知ってる。知ってるわ。
こんな私の為に泣いたりしないで。
不適に笑う貴方が好きだったの。
いつも自信たっぷりで。
それはもう嫌味なほど。
けれど大好きだったわ。貴方らしかったから。
大きな腕が大好きだったの。
血に濡れて、傷がいっぱいで、
それでも髪に触れるその腕は優しくて。
囁く声が大好きだったの。
低く、低く。
時には前を向けと。
貴方の声に何度助けられただろう。
貴方が貴方で。
好きで、好きで。
あぁ、ずっと隣に居られればよかったのに。
こんな出来損ないの体だけれど。
罪を犯した私だけれど。
それでもそれを望んでいたの。
ずっと。
ごめんなさい。
残していく事の辛さを私は選んだ。
あんなに残される事が辛いのだと知っているのに。
貴方にそれを選ばせてしまった。
一分でも。
いいえ、一秒でも。
貴方よりも長く生きたかった。
生きていたかった。
貴方の傍に。
春は一緒に庭に種を植えて、
夏は一緒に小さなプールを作って、
秋は落ち葉で焼き芋でも、
冬は雪見酒でも傾けて。
何も無くてよかった。
ただ過ごして行きたいと。
望んだのはそれだけだった。
貴方の腕で迎える満月の夜が
私の最後の景色。
まんまるに明るい月の光りよどうか。
どうか私の大切な人を照らしてください。
あの人が決して道を踏み間違えないように。
私が照らしたいと切望した闇夜を、
どうか私の代わりに照らしてください。
分かっていた事だろうと真理の影が笑う。
それでも。
それでも悲しいのは、私が彼を愛しているからだわ。