「パパ〜サンタさん!!」
手を握っていた小さなお姫さまは、
ぐんと体を前に突き出して、繋いでいない手をいっぱいに広げてみせた。
小さな手が示したその先には、
白い髭をたらし、赤い衣装とふわふわの毛で覆われたサンタクロースがいた。
聖夜でなければ会えないであろう彼らは、
なぜか忙しそうにせかせかと動き、
手に持っているカゴの中から紙切れを配っていた。
(・・・夢もなにもあったもんじゃない・・・)
小さくため息を吐くが、
その息も白くなるような寒い日。
クリスマスの買出しにと家族で外に出かけてみれば、
偽サンタが待ちの中にゴロゴロといるではないか。
『パパ!私サンタさんに会いたい!!』
『ははっそうだな。2人は本当に良い子だから、
きっとサンタさんは来てくれるよ』
『ほんとう!!クリスマスがたのしみぃ』
幾日か前の会話が蘇ってくる。
まったく・・・幸せ家族の会話を大切にしてもらいたいものだ。
あんなに満面の微笑で可愛らしくてしかたのない娘たちの思いを
無駄にするというなら、この場で消し炭にでも・・・。
「ねぇ、ママ・・・良い子にしてるよって言ってね」
「マリーも!見ててくださいねって!!」
「大丈夫だよ。」
フワフワとした毛糸の手袋から胸にある発火布に変えようかと思案していた時、
娘たちと妻はニコニコと会話を続けていた。
てっきりガッカリしてしまうのではないかと思った娘たちは、
どうやら聖夜にしか会えないはずのサンタを前にしてもガッカリしていないようだ。
しかし、妙に緊張した面持ちなのは気のせいではないだろう。
若作りのサンタの前を通っても、
ビシッと背筋を伸ばして90度近くに体をまげて挨拶をしてみせた。
「良い子だね」といって、若サンタはポケットから飴玉をくれるが、
そのお返しにも大きな声で「「ありがとうございます」」と丁寧に答えた。
なんて自分の娘は礼儀正しいのだろうかと道行く人に自慢したい気持ちだが、
横で白いコートに金色の髪を垂らした美しい妻は、
クスクスと笑っているばかりだ。
(・・・?)
「ママ!!だいじょうぶかな?」
「今のっちゃんとできてた?」
「はいはい。ロジーもマリーもきちんと出来てました」
同じ金色の髪を二つに分けて結んでいる娘の頭を
妻はくしゃりと撫でてやっていた。
えへへっと照れる姿はもうべらぼうに可愛いのだけれど、
不思議な思いにかられてしまう、父親が1人。
「・・・2人とも、クリスマス前にサンタさんがいてもいいのかい?」
娘の夢を壊していやしないかと不安に思いながらも、
注意深くそう聞いてみる。
すると、娘たちはコクリと首を傾げて下から自分を見上げて言った。
「なんで?だってサンタさんは、見ててくれるんだよ〜」
「パパ知らないの?『ちょうさ』なんだもんっ」
(サンタが『ちょうさ』?)
言葉を反芻していたら、娘たちはまた次のサンタを見つけたようで、
こちらは結構年配のサンタであったが、
そのサンタに向かって「「ごくろうさまです」」と声を揃えた。
まぁ、確かにこの寒空にチラシだかなんだかを配るのはご苦労な事だろうが、
サンタを純粋に信じている子どもが言うことだろうか・・・。
少なくとも自分には覚えがない。
唖然としていれば、隣からまた妻がクスクスと笑っている事に気付いた。
妻ならばきっと何か知っているのだろう。
「エディ?ロジーとマリーはどうしたんだい?」
目の前で再び90度の礼をしている幼い娘たちに目を遣りながら、
笑い続ける妻に尋ねる。
「あっあぁ。昔話をしてあげたんだよ。サンタさんのね」
「昔話?」
「小さい時に聞いたんだ。サンタさんは一年間の良い子がきちんと良い子かどうか、
たくさんの友達と一緒にクリスマス前になったら『ちょうさ』しに来るんだよって」
「ちょうさ・・・かい」
「そう。それを聞いて、あの子たちずっとっ」
ここでまた堪えられなくなったのかクスクスと笑って見せた。
確かに可愛らしくてしょうがない。
今でも十分過ぎるほどに良い子な娘たちは、
サンタの友達らしい者を見るたびにああやって労を労っているのだそうだ。
「それを誰に?」
「もちろん!母さんからだよ。
アルと2人で泣きついたんだよ・・・昔。
クリスマスまでまだなのに、サンタさんがいっぱいだよってね」
「あぁ、それで・・・母上は君にそう教えたんだね」
うんそうだよっと言って頬を赤くした妻は、
紛れもなく母親の顔をしていて。
きっと、自分が受けた愛情の形を娘たちに伝えられる事を
誇りに思っているのだろう。
さぁ、たくさんのクリスマスの買い物をして。
聖夜を祝おうじゃないか。
娘たちへのプレゼントと妻の手料理。
なんとも暖かなロウソクの光りが揺れる、家庭の中で。