「少将・・・・疲れてるって顔してますよ」
娘を保育園に降ろした後で、ハボックが声を掛けてきた。
バックミラーを窺いながら躊躇いがちに。
妻を亡くしてから二週間経った。
エドワードを失ったら、きっと自分は生きていけないと思っていたのに、
空はどこまでも青いし、呼吸もできる。
ご飯も食べられるし、話もできる。
どうして生きていられるのだろうかと問い詰めたくなる程に。
それでも、「世界」は変わらなくとも「生活」は一変した。
最初の一週間は周りに人がいて、
妻を亡くしたことに取り乱す暇もなく、毎日が過ぎていった。
ただ、無意識にふり向いた時に、
そこに求める妻の姿はなく、何度となく落胆し、何度も悲しみが胸を過ぎった。
けれど、騒がしさは次第に薄れ、
人びとは自分たちとは違う「日常」に戻っていった。
しかし、私はどこまで行っても「日常」に戻ることはできない。
娘と2人でとる食事のなんと静かなこと。
話題を振ろうにも言葉が出てこず、食器の音がやけに大きく感じられた。
暖かかったキッチンから湯気が消え、
椅子にかけてあった妻のエプロンはどこかに仕舞われていた。
妻の面影を追い、辺りを見回す自分の目に飛び込んだのは、
思わず声を挙げたくなるほどの痛ましさだった。
あぁなんてことだろう。
あの活発な子が。
いつも明るく笑っていた子が耐えている。
必死に泣く事を耐えている。
スプーンを持つ手は震え、くっと噛み締められた唇が痛々しい。
こんなに小さな子が。
こんなに愛しい子が。
かつて母親を失くした子どもを知っている。
その子にどれだけの悲しみがあっただろうと思いめぐらせた日も多かった。
自分がそのとき傍にいてやれていればと思ったこともあった。
けれど、
今まさに我が子がその状態にいて、
何もできない自分がいる。
食事はテイクアウトのモノで、妻が作ってくれた出来立ての素朴な味わいはなく、
朝も慌しい中で時間に追われ、保育園に迎えにいくころには時間も大幅に過ぎてしまっている。
なぜ、自分が今ここに生きていられるか?
そんなことは分かりきっているではないか。
娘がいてくれるからだ。
自分と愛しい人の血を分けた可愛い娘。
彼女がいてくれなかったら、自分は生きていられなかった。
なのに、自分はこの子のために何もしてあげられない。
車外の流れる景色を見ながら、
娘のことを考える。
母親を亡くすという悲しみから立ち上がったエドワード。
彼女は何によって立ち上がることができたのだろうか。
弟の存在?
錬金術で母親を取り戻そうという願い?
「仕事だって大変だっていうのに、家事までするなんて無理っスよ。
まぁ・・・ミリアにしてやりたいっていうのは分かりますけど・・・」
「そうか・・・・あの子を一人にしない方法を」
エドワードにロックベルさんがいたように。
一緒にいてくれる存在。