そ れ は 現 か 幻 か
今日、君の夢を見た。
私が初めて贈った真っ白なワンピースを着て笑っていたね。
あれは、君が逝く少し前。
無菌室となった寝室で笑っていたあの笑顔で。
苦しいとか辛いとか、決して言わない君だったから、
笑う君だったから、私はこんなにも辛いのだと思うけれど
そんな君にどれだけ救われたか分からない。
もし、あの時。
君が苦しいとその顔を歪めていたら、私はどうしただろうか。
もし、あの時。
君が辛いと泣いていたら、私はどうしただろうか。
狂っていたかもしれない、君をこの手で終わらせて、
一緒に逝ったかもしれない。
それはとても甘い誘惑だけれど、
君の傍に逝くことを君は許しはしないから、
だから、笑っていたのだろうか。
亡くして分かることの何と多いこと。
抱きしめたいのにここに居てくれなくて。
逝く君の傍にいられなくて。
居なくなってしばらくは、眠ることすらできなかった。
夢で見てしまう君のその姿を、ベッドの上で探してしまって手を伸ばすのに
そこは冷たい場所で、慌てて目を覚ます。
その度に居ないのだと。
もう、ここには居ないのだと。
そう実感したくはないのに、嫌でもそう分かってしまうから、
眠ることは本当に恐かった。
それでも、君が笑ってくれたから。
悲しい思い出ばかりではないと。
そう、笑ってくれたから、
少しだけ眠ることが恐くなくなった。
慌てて目を覚ますことはまだあるけれど、
頬を伝う涙があるけれど、
自分が君を忘れていないことは、なんと誇らしいことだと思うから。
母上には会えたかい?
ヒューズもそっちにいるのだろうか。
妻子自慢を聞かされてうんざりしてはいないかい?
あいつは、いつもそんな話ばかりしていたから。
ヒューズとばかり話をするのは少し妬けるが、
私の妻に触れるなと、命日にグラスを傾けて忠告しておいたから、
きっと大丈夫だと思う。
なにより、あいつはグレイシアしか見えていなかったのだから
杞憂だろうか。
毎日聞かされたときは、いい加減にしろと思っていたが
妻子自慢をしていたあいつの気持ちも分からんでもない。
私もそっちに逝ったなら、たっぷりと妻自慢をするとしよう。
大総統になった後になるから、もう少しかかるけれど、
待っていてくれれば有難い。
君の夢を見た。
少し忙しさに捕らわれて、軍に流されそうになった時だった。
優しく、その微笑を向けてくれた。
そうだね。自分はこんなところで自棄になることはできない。
狡猾に、あの狸の鼻を明かして、そうしてゆっくりと笑ってやろう。
背中の汗には気付かない振りをして、部下の肩を叩いてやるくらいの気持ちを持って。
この駆け引きが終わったら、リゼンブールに向かうから。
君に会いにいくよ。
リゼンブールの満月を君と見ようか。