「お花いかがですか?」

 

 

 

領地の半分が砂漠化しており、作物の収穫量も年々減る一方だと報告を受けた土地。

何故、自分がこの土地の視察を任されたのか分からないままにここにいる。

その答えとして、十中八九は階級が上がるに連れて人数の減った上官殿の激励兼嫌がらせなのだろうが。

 

ひゅうと風が通るたびに舞い上がる砂埃を前にして、途方に暮れる。

 

「はぁ・・・帰りたい」と口に出すたびに、共に視察に出向いている部下から冷たい目線を投げられた。

不敬罪であるかのような態度ではあるが、この部下を罰しでもすれば、愛妻の怒りを買う事は明白で、

また、長年の気安さも手伝ってか、部下の態度を享受する。

 

手元の報告書をペラリと手繰れば、簡単なグラフと説明書きが見て取れる。

出発前に確認したものと大差はなく、また現状を見てもそれに違いがあるとは思えなかった。

 

「これが過疎地です」と写真つきで教材にでも出来そうなほどに

その土地は荒れており、人通りも少なかった(いや、無いと言ってしまっても誤りではないかも知れない)。

土地の収穫のほとんどは地産地消の作物ばかりで、他地域との物流はないに等しい。

あるのは有毒ガスが立ち込め、出入り禁止となった鉱山の跡地ぐらいだろうか。

 

土地の発展は望めず、近隣との合併も交渉決裂。

まさに八方塞な土地。

 

「・・・・ここをどうにかして賑わせと・・・」

国中の土地を活発にして、さぁ、国益の増大だぁ〜☆と息巻いている上官殿は、

この土地をどうにかしたまえ、マスタング君とばかりにこの視察を任したのだろう。

 

水はある。枯渇しているのではない。

街道の整備もまあまあ。

山向こうではあるが、賑わう隣町も存在している。

 

「ふむ・・・」

では、ここがこんなに荒廃している原因とは何だろうか。

 

急激な砂漠化とも相まって、ガスによる商売の転換。

それに適応できなかった主要工業従事者が他の土地に流失。

その結果、彼らで持っていた土地の生活者もまた職を失った。

 

・・・・というところだろうか。

 

 

鉱山資源はもう頼れないとして、他の資源となるものが必要。

とは言え・・・・どうしたものか。

 

 

思考にその瞳を閉じる。

あぁ、ものすごく煩わしい。

この視察さえなければ、愛しい家族と共に今日も今日とて過ごしていたものを。

・・・・っと、いけない、いけない。

今は、他の活用資源を・・・・。

 

 

 

「お花いかがですか?」

 

 

うん?

足の辺りで、ポンと触れる暖かな存在に閉じていた瞳を開く。

ちょうど家にいるだろう娘と同じくらいの身長だろうか?

栗色の髪をツインテールにして、赤いリボンで括っている少女が花束を差し出している。

花束といっても中央の花屋に並んでいる豪華な色を撒き散らす花ではなく、

野の花を摘み、新聞紙でくるんだ質素なものであるように見えた。

 

殺風景な視察地に突然現れた幼子は、

目を閉じて思い出された家族の恋しさを増すには十分な存在で。

そんな少女からの可愛らしいお願いを無下にすることは出来なかった。

 

 

土地の憲兵が「申し訳ありません」と焦りながら、足下の少女を退かせようとするのを手で制し、

視線を合わせるために腰を屈める。

 

「綺麗な花だね。貰おうか」

 

やれやれといった風の部下の様子はこの際無視して、少女にポケットの中から代金を渡す。

にこっと笑った少女は、娘の笑顔には劣るが可愛らしいものだった。

 

 

 

走り去っていく少女に手を振りながら、手の中の花束を見る。

横から憲兵が「申し訳ありません」と再度言いながら、頭を下げ、

「収益が乏しいために、花売りや・・・・里子に出さねばならない家もあるようで」と、

顔をしかめてそう呟いた。

 

 

笑った少女の顔と愛しい娘の顔が重なる。

何不自由なく育ててやりたいと願うのはどこの親であろうと同じ願いであろう。

子を手放すということがどれ程の悲しみであろうか。

 

 

「うむ・・・・」

 

 

 

 

 

 

「シーク温泉へどうぞ☆・・・って1カ月ほど前に少将が視察された?」

 

中央新聞のトピックニュースを読みながら、ヒュリーは同行したハボックに問うた。

休憩をとっていたハボックはコーヒーを啜りながら肯いて見せた。

 

「・・・まったく興味ないってばかりに、帰りたい帰りたいって言ってたンだけど、

 お姫さん達ぐらいの花売りの子に会ってさぁ・・・・不自由してんの見て・・・・これだぜ?」

 

 

何をどう練成したのか聞いても「企業秘密だ」と教えてはくれなかったが、

荒廃した土地に「温泉」を噴出させた上官は、土地の企業に莫大な私財を投資して、

そこに温泉施設の建設を促した。

施設の管理や労働者も土地の者を優遇し雇うようにと言いつけて。

 

 

もともと土地としての立地も申し分ない「シーク温泉」は一躍リゾート地として開花し、

隣接する街にも貢献するほどの集客を見せている。

この分だと、交渉決裂となっていた合併の話も随分と好条件で受け入れられるだろう。

 

 

 

 

上官曰く、「娘を・・・・里子になど出せるか!!!!」だそうで。

全くもって将軍クラスの軍人を父親に持つ娘が、

金銭的理由から里子に出されるなどという話は聞いた事がない。

 

自分の上官の「娘ばかっぷり」と

両親ともに国家錬金術師であったりする家族の金銭的感覚の方がおかしいと、

ハボックは思い知ったという。

ロイエド子

正しいお金の使い方