ふわりふわりと金色が風に揺れていた。

あぁなんて綺麗なんだろうと。

あの空の青さよりも宝石の瞬きよりも。

どんな偶然でも構わない。

君と一緒にいられることがなによりの。

 

 

 

 

 

たしかなこと

 

 

 

 

 

 

 

馬鹿げた命令や腹立たしい上官の笑い声ではなく、私を戸惑わせるのはいつも君の涙だった。

 

 

 

小さな肩を抱きしめて、君に愛を告げたとき。

ハラリと涙を流して、袖口を握り締めた君の腕は震えていて。

あの時の自分の気持ちを終ぞ君に言う事はなかったけれど、

君の金色の髪越しに見た空は、雲が風に流されながら、その奥に天国でもあるのかという程に美しく、

細い光りの線が降り注いでいたんだ。

 

 

走り続けた君を誰にも渡したくなくて、

まるで攫うように自分のものにしてしまったけれど、

君が暖かな紅茶をテラスに運んで、薄いバケットにバターをたっぷりとぬったハムとチーズのサンドを

一緒に小さく笑いながら食べている時に、「幸せ」という声に嘘はなかったはずだから。

 

 

いつも幸せを感じた瞬間に、別の場所から音が響いて。

それはどんどんと大きくなっていった。

まったくどうして世界はこんなにも裏側に満ちているのか。

 

まさか再び戦争なんてものが起きるなんて、まったく馬鹿げた話ではあったけれど、

それでも。

 

 

私は国軍准将の地位にいて、それを良くは思わない者がいて。

私は国家錬金術師であり、それはすなわち人間兵器。

 

 

ただ、それでも胸を撫で下ろしたのは、君の名前が召集リストになかったからで。

「ちっさすがに身重な者を戦線に送り出すわけには」と小さく忌々しげに告げた上官は、

確かに妻の身を案じての結論ではなく、国民感情の為であろうとは分かっていたけれども。

それでも、その言葉に頭を下げるほどには、「良かった」と思ったんだ。

 

 

君が戦場に行かなくてよかった。

君が行かない分も働けというのならば、働いてやろう。

君の安全が私の出兵で保証されるなら構わない。

 

 

ただ、君が泣く事は想像できて。

それは辛いなと思う。

 

 

 

 

 

 

 

泣きはらした目が痛々しい。

まるで小さく震えるウサギの瞳のように見えて、抱きしめる腕を離すことができない。

「行かないで」という君に、「帰ってくる」としか告げられない。

 

 

 

愛している。

愛している。

ただ、本当に。

君を何よりも愛している。

 

 

何度言っただろう。

何度思っただろう。

 

 

思いは次の瞬間には溢れ出して、止まる事無く。

愛しくて、愛しくて。

 

 

 

この先、自分がいないこの場所で、きっと泣くだろう妻。

泣いてしまうだろう愛しい人。

ずっと肩を抱いていたいのに、現実と慌しい世界はそれを許さない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あぁ空が高い。

目の先には赤い赤い・・・これは何だろう。

それでも体の奥の熱と指先の冷たさと。

遠く聞える銃弾の音と、近くの静けさと。

 

 

あぁ・・・帰らなければならないのに。

 

 

 

きっと泣いている。

あの一緒に選んだブルーのシーツとオフホワイトのカバーに包まれて、

小さな肩を震わせて泣いている。

 

 

誰よりも愛しい人。

君を守ると誓った。

 

 

 

彼女の腹には命が宿っている。

抱きしめて、手を繋いで、一緒に笑って生きるのだ。

 

 

 

 

ぬかるんだ地面に力を込めて立とうとすれども、

ゴボリと嫌な音がして、自分の口から暖かいものが流れていく。

カサついた唇は潤いながらも、今度は息が難しい。

 

 

 

 

空は雨が上がり、暗い雲が端に流れていく。

雲間には光りが戻り、まるで愛の言葉を君に告げたあの空のよう。

金色の君の髪に触れたい。

艶やかでふかふかの綿のような。

 

 

生まれる子の髪はどちらに似ているだろう。

名前は私が付けると決めていた。

まだ贈ることもできていない。

 

 

 

 

 

あぁ・・・頬を伝うのは涙だろうか。

誰の?

 

 

きっと君が泣いている。

早く抱きしめたいのに、こんなに自分は非力だったろうか。

 

 

 

死にたくない。

君を愛している。

1人で泣かせたくない。

死にたくない。

 

 

 

傍にいたい。

生きて君の傍に。

ロイエド子