それは暖かい朝だった。

昨日までの寒さはどこに行ってしまったのかと思うほどで、

宿の主人が多めにくれた毛布を、自分は確かにかけて眠ったというのに、

ベッドサイドに落ちてしまっていた。

 

 

寝起きのぼんやりとした、それでも現実の中にいて、

これが夢だったらと思う時点で、夢なのではないのだろう。

 

 

ふぅとため息を一つ。

昨日まで走りに走っていた自分が嘘のようだ。

何をする気にもならない。

 

目は腫れぼったいし、

涙を耐えようとしたせいか、肩が痛い。

喉の奥は焼けたあとのように詰まる。

 

 

 

 

 

 

「・・・鋼の」

 

 

 

 

あぁ、とうとう。

ははっ・・・とうとう、声が聞こえるなんて。

 

耳元で。

 

あぁ、末期症状か。

彼が自分を呼ぶことなどもう二度とないのだから。

 

 

 

 

「・・・・・・・・やはり聞えないのだな」

 

 

「ってか未練がましい・・・」

 

 

「全くだな・・・・・・」

 

 

「あいつはもう居ないんだから」

 

 

 

「私はもう死んでしまったというのに」

 

 

 

 

「・・・・・・・・・・」

 

 

 

 

「・・・・・・・・・・」

 

 

 

「・・・・・・大佐?」

 

 

 

 

「・・・・・・鋼の?」

 

 

 

 

 

「あんた・・・・・・本当に?」

 

 

 

 

 

「君は・・・・・私が見えているのかい?」

 

 

 

 

 

「ちょっ!!!!大佐っ!!!!!!」

 

 

 

 

 

「わっちょっ・・・・・鋼の!!!!!」

 

 

 

 

 

 

ドタンと音が響いた。

 

泣き顔を見られまいと弟とは別にとった部屋は、

シングルベッドに簡単な机と衣類かけが一組という簡素な印象の部屋だった。

 

エドワードがロイを見つけたのは、ドアと向き合って付けられている出窓と

薄い緑のカーテンがある部屋の角だった。

 

唖然としている彼めがけて飛び起きて、飛びついたら、

エドワードは思いっきり出窓の桟に頭をぶつけてしまった。

 

 

 

 

「いってててててっ」

 

 

 

「・・・・・すり抜けてしまうんだな」

 

 

 

 

確かに、自分とぶつけた窓の桟の間には、

ロイ・マスタングがいたというのに、

飛び出したエドワードはロイの体をすり抜けてしまった。

 

 

ロイは頭をぶつけたエドワードを支えてやろうと手を伸ばしたが、

その手すらエドワードの体をすり抜けてしまう事に苦笑した。

 

 

 

 

 

「なぁ・・・・どうしてあんたは何も言わずに」

 

 

 

「死んでしまったか?」

 

 

 

鋼のが死という言葉を使うことを躊躇っているのだと分かると、

自分が本当に死んでいるのだと素直に受け入れることができた。

それはもう驚くほどに。

 

 

 

 

あまりに簡単に返されて、

あぁ、事実なのだと理解しろと言われているようで。

 

 

 

 

 

もういいと言ってやりたい。

なら、どうしてここに現れたのだと言われれば、何も返せないけれど、

ただ、もう1度会いたいと思って。

それが君にとってどれだけ残酷かなど思わずに。

 

 

 

 

「鋼の・・・・・私は」

 

 

 

 

「あっあのさっ!!」

 

 

 

行ってしまう。

 

 

 

泣きそうだと思う。

 

 

 

「解けない錬金術の構築式があるんだっ」

 

 

繋ぎとめなきゃ。

また・・・・会えなくなる。

 

 

 

必死になって。

 

 

 

 

「焔の・・・で、分からなくてっ!!」

 

 

 

 

 

ありがとう。

 

 

 

 

 

「だから・・・・だから」

 

 

 

 

 

「しょうがないね・・・・・手伝おう」

 

 

 

 

 

 

離れなければならないことなど分かっている。

 

 

 

 

このままでいいなどと思ってはいない。

 

 

 

 

 

 

 

 

もう少しだけ。時間をください。

ロイエド子