降る雨よ。

どうしてそんなに焦らせる。

この時期はいつも雨が競って落ちてくる。

 

あと一日。

あと数日の後には。

 

 

サアサア

 

銀色の糸が、玉を作りながら落ちてくる。

湿った空気のその先に、降り出したそれは、

毎年、この一週間が待てないとばかりに、同時刻に降るように思う。

 

淡い花の下に敷かれた青いビニールシートを、

透明な水が潤しながら流れていく。

遠くには、白い傘を差しながら、優雅に歩く人が見えて、

こうした時にも「情緒があるね」なんて囁きあっているのだろうか。

 

 

 

『花が散ってしまうね』

 

『勿体無いよなぁ。どうせもう少ししか咲いてないのにさ』

 

 

 

だから恋焦がれて。

その下に行かずにはいられない。

儚い命だからこそ。

 

 

 

『だから美しいのだよ』

 

『ふぅん・・・何か悪趣味・・・散るから見ていたいなんて、無いものねだりじゃないか』

 

 

確かにね。

 

手にしているモノよりも、追うモノの方が美しく見えるのかも知れない。

だから、人は「儚く散る」あの花びらを欲して止まない。

後には見れないものだから、この一刻を争ってその花を愛でる。

 

 

 

 

雨が降る。

サアサアと音がする。

あの甘い香りに満たされたあの場所と同じように。

 

 

この荒れた大地に、鉛色の雨。

腐敗と荒廃を潤す鉛の雨が導くのは悲鳴と悲しみと。

狂気と大地を潤す赤い水は、地面の近くで溢れ出して。

 

取り戻せない。

もう戻せない。

 

散った花は戻らない。

 

 

あぁ、ここにあの散る事を惜しんだあの花が、

あの樹木があったなら、

君から溢れたその赤で、白い花を染めるだろうか。

 

 

惜しむべくは儚い花。

零れ落ちるあの小さな体。

 

 

無いものねだりか。

こんな儚い君を愛した訳ではなくて。

散る間を惜しむように君の傍に居たわけではなくて。

 

 

 

雨よ止め。

この腕の焔を。

 

燃やし尽くしてやろう。

君の血を吸った赤い花。

止まらないあの雨を。

 

 

君がいない世界に躊躇うモノなどなにもない。

躊躇うものなどあろうはずがない。

 

いっそ世界も壊れればいいのだ。

 

 

 

 

『来年また咲くんだろう。それでいいじゃないか』

 

『同じ花は咲かないだろう』

 

『まぁね・・・でも、また一緒に見よう』

 

『年に一度の逢瀬かい?それもいいが・・・もっと近くにいたいだろう?』

 

『・・・・同じもので悪いけど、俺ならずっと隣で咲いててやるよ』

 

 

 

 

君がいない。

君がいない。

 

こんな世界に意味はない。

 

 

花散らしの雨が降る。

サラサラ サラ と。

ロイエド子

散る花