手を伸ばしてみる。
そこにはきっと求めて止まない暖かさがあると信じて。
「エディ?」
ふかふかとした肌に心地よい感触を残すシーツを辿り、
すべらかでそれでいて優しいあの肌を求める。
しかし、伸ばしてみた己の腕にそれは訪れなかった。
どれほど伸ばしてみても、シーツには暖かさすら残っていない。
「エディ!?」
寝相が良いとは言えない恋人は、以前ベッドの下に落ちてしまっていた事があった。
その事を急に思い出して、その温もりがまた落ちているのではないかと、焦った。
掛けてあった布団を跳ね除けて、ベッドの左側を覗き込む。
いない。
勢いよく反対側の下も見てみる。
いない。
・・・いない。
落ちていない事は安堵したいが、ならばどこに行ったのだろう。
暖かかったはずのその空間が急に冷え込んで感じられる。
今の彼女を1人にはしておけないというのに。
月明かりの下に彼女はいた。
薄い夜着のままで、テラスから月を見ていた。
煌々と輝くその月は、あまりに大きく、いっそ恐怖すら感じてしまう。
全てを隠す夜の闇を暴かんとしてぽっかりと明いた月の光。
その下では、すべての懺悔が重なっている。
夜が悲しいのは、隠してしまえる悲しみを暴かれてしまう恐怖があるからか。
隣から消えてしまったその体を後ろからそっと抱きしめる。
「・・・ロイ」
彼女はくすりと笑って、肩に埋めた頭をその細い腕で抱きこんだ。
香るのは同じ香りであるはずなのに、それでも甘く感じられる。
「探したよ。君までいなくなってしまうかと・・・思った」
悲しい事があった。
苦しい事があった。
体を取り戻したその等価がまだ足りないのだろうかと彼女は泣いた。
ごめんとずっと謝っていた。
声は掠れてしまって、目は赤く腫れてしまって。
腰に回していた腕をそっと下の方にずらして、その上にエディは掌を乗せた。
いつから外に居たのだろう、その掌はとても冷たい。
零れた涙が腕にあたるけれど、その涙の方が暖かく感じられる。
「ごめんね・・・ごめん」
重ねられた腕の下は、宿る場所。
生命の誕生をまるで母なる海と例えるように、その胎内。
そこにあったものと、失われたもの。
「君が無事でよかった」
ささやく様に、しかし、しっかりと。
どんなに酷い男だと罵られてもかまわない。
君が無事でよかった。
本当にそれでよかったんだ。
零れてしまったものは確かにあるけれど、
それでも。
自分の腕で君が暖かくなってくれればいい。
生きていてくれればいい。
失ったもの