「エディ!!」
いつも私は振り回されてばかりだ・・・あの愛し子に。
【幸せな場所でその瞬間を】
走り回る子。
長い金髪はサラサラと。
小柄ながら可愛らしく美しい。
彼女の名前は、エドワード・エルリック。
願いを叶えた彼女の腕と足は、生身の身体に戻っている。
もちろん、彼女の弟であるアルフォンス・エルリックも立派な青年に戻った。
そして、エディに思いを告げ、結婚したのが一年前。
なかなか、思いを伝えられなかったが、それもまた叶った。
現在、正確にはエドワード・マスタング。
いつも、元気で、走り回る・・・。
いや、それすらも愛しいのだが、今は・・・困る。
「エディ!走っては駄目だと言ってるだろう。」
現在、彼女は妊娠三ヶ月。
待望の子ども誕生までまだまだ先ではあるが、
心の中は幸せに満ち溢れている。
しかし、母親になるエディの行動は妊娠前とまるで変わらない。
走り回るわ、錬金術を使おうとするわ・・・。
目を離せないとは、まさにこのことだろう。
「本当か?!」
固まった、大好きな人。
3日ぐらい前から、体がダルくて、熱っぽかった。
風邪かな?ぐらいに思って、常備薬を探したが切らしていた。
薬局はもう閉まっている時間で、明日にでも買ってこよう。
そう思ったときに、リビングの扉が開いた。
あっヤバイ・・・。
そこに立っているのは、紛れもない自分の夫。
まさか、出会った時は結婚するなんて考えてもいなかったけど、
今では、大切で・・・大好きな人、ロイ・マスタング。
ロイは、こと自分に甘い。
「エディ・・・1人で何を・・・。」
彼の顔が変わる。それは、いつも常備薬を入れている救急箱を
オレの手の中に見つけたからだろう。
「調子が悪いのか?!どうして何も言わないんだい!」
走りよって、自分の手をオレの額に当てる。
「大したことないよ。すこしダルイだけで・・・。」
ロイの手の下から、顔を覗き込む。
「熱があるな・・・。薬は飲んだのかい?」
ドキ。飲んでない・・・。
「あっと・・・。その・・・飲んでません。あの・・・無くて。」
ぎこちなく、言葉を紡ぐ。飲んだと言っても良かったのだが、ばれたら後が大変に怖い。自分に甘い彼は、そういうところに容赦がない。
「すぐに、病院に行こう。最近、たちの悪い風邪が流行っているようだしね。」
いいね。と目を見て言われたら、もう頷くしかない。
本当に、そこまで酷くはないのだけど、寝てれば治るは通用しない。
多少のことなら、薬など探さない自分をロイは知っているから。
薬を探しているところを見られた時から、なんとなく分かっていた様な気がする。
妙な敗北感に包まれながら、ロイの運転で病院へ向かう。
いつもはハボック中尉に運転してもらっているロイだけど、
もちろん、運転はできる。
実際、ロイの運転は上手いし、かっこいいので好きだった。
ぼんやりと、ロイを助手席で見ながら、司令部に程近い病院についた。
夜も遅かったため、いつもの先生が来るのに少し時間がかかった。
いつもの先生とは女医のカナル医師だ。以前、掛かりつけの医師を決める時、ロイが女医でなければならないと探したのが、このカナル医師だった。
医者なんて、男女の区別をするものじゃないと何度もいったのだが、
「君の肌を私以外の男性が触るなんて、医者であろうと我慢できない。」
と、真顔で言った。
さらに、自分をカナル医師のいない時に診察しようとした男性医師は、そのことがどういった経緯かロイに知られてしまって、消し炭にされてしまうところだった。
それ以来、この病院ではエドワード・マスタングの診察は、女医が暗黙の了解となった。
結婚・妊娠発覚・つわり騒動などが収録されています。