夢の間に間に
「なんだ・・・・こんな所にいたのかい?」
「・・・・・ここはとても暖かいんだ」
まどろんだままでゆっくりと瞼を上げた金色の瞳。
ふかりとした毛布を一枚引き込んで、二階の一室に妻は居た。
そこは2人に子どもが出来たならここに子ども部屋をつくろうと決めていた場所で、
だから今は物置に使っているというのに、日当たりは万全なのだ。
ダンボール箱に入ったままになっているもらい物の大きな時計や花瓶が置いてあって、
季節外れの衣類がしまってあるケースが重ねられている一室。
「まったく君は猫みたいだね」
くすくすと笑いながら光りが届いている金色の髪を撫でる。
その髪は柔らかで、少しだけの抵抗を感じさせながら梳く指を通していく。
「・・・にゃぁ」
毛布から顔を出しているだけの妻は毛布の先を掴んでいる手をまるで猫の手のように丸めて、
夢から覚醒したばかりの少しだけ掠れた声で猫の鳴きまねを披露した。
「さぁさぁ、猫が逃げてしまわないように、とびっきりの料理を用意したのだから、
覚めないうちに降りておいでよ」
毛布ごと抱き上げると、顔を胸のあたりに摺り寄せて、本当の猫のようだとまた思う。
生身の体を取り戻してから、ずいぶんと軽くなった体は簡単に抱き運べてしまう。
「・・・・また痩せたんじゃないか?」
「そんなことないって。それより今日の夕飯は?」
「君の好きなシチューだよ。それにミートパイだ。」
チュッと可愛らしく首元にキスを贈られて、抱き上げていた妻を下ろす。
毛布をリビングのソファーに預けて、「どうだ自信作なんだ」とシチューを大皿によそった。
「ありがとう」
にこりと君が笑う。
それは幸せをいっぱいに散りばめた笑顔。
君が好きだ。
好きで、好きで・・・大好きで。
「っ・・・・・堪らないな」
取り戻せないはずの日常を、自分はこうして夢に見る。
死んだ人は動かない、笑わない、名前を呼んだりしない。
ただ冷たく、じっと動かず。
そうそれがあの蜂蜜の金色やまるで太陽の光りのようだった瞳だったとしても。
重く閉じられた瞳を覗こうとするならば、その瞼をこの指でこじ開けなければないないのだから。
もしも、その夢のように。
そしていつだかの映画のように。
もしも、もしも死んだ人が生き返るのだとしたら、自分はどうするだろう。
暖かな体のままで、蕩けるような笑顔を持って、そうしてあの鈴のような声で、
「ロイ」と呼んでくれたなら。
会いたい。
会いたい会いたい会いたい・・・っ会いたい。
抱きしめたい、名前を呼んで欲しい、あの髪に触りたい。
こんなにも鮮明に自分は彼女の事を覚えていて、
もうきっと、忘れることなど出来ないのに。
その彼女をこの腕に抱く事は二度と出来ず、それはどんな悪夢よりも悪夢だろう。
そんな夢の中に1人でずっと。
もしも、愛しい人が生き返ったというならば、
誰が化け物だと罵ろうと、彼女は死んだのだと嘆こうと、
そんなことは、もう、どうだっていいに決まっている。
あの優しい彼女はきっと私を迎えに来たに決まっている。
そうだ、そうに決まっている。
生き返る期間が決まっていて、そうしてここに戻ってきたというのなら、
連れて逝きそびれた私の手をとりに来たに決まっている。
「だからっ・・・・だから君はここに来てはくれないのかい?エディ」
頬を伝った涙に触れる細く白い手はもうない。
「怖い夢でもみたの」と頭を撫でてくれる君もいない。
ただ、君が泣いているのはどうしてだか分かって。
きっとこんな風に泣いている自分の前に姿さえ見せられないそんな状況を嘆いているのも分かる。
姿を見せれば私は君の下へすぐにだって駆け出してしまうだろうから。
だから、君は姿を見せてはくれないのだね。
もう一度、君に会いたい。
もう一度、君に触れたい。
もう一度、君を抱きたい。
もう一度、君を呼びたい。
その為になら、どんなことだって出来るのに。