時は夕刻。
場所は中央。
隣には幼馴染。
友情と甘いお酒
さぁ今日は一緒に飲み明かそうぜ!!と予約の電話まで入れて訪れた居酒屋。
しかし、兵士で埋め尽くされるような雰囲気の飲み屋ではなく、
薄暗い証明の中にアンティークの家具が並べられ、緑もふんだんにあしらわれている空間。
たまには女同士で飲むのもいいじゃないと出かけた中央のこの場所。
きっとエドワードがこの場所を知ったのは、夫であるロイに連れてきてもらったからなのだろう。
女性客だけでも気楽に、そしてゆっくりと過ごせるように配慮されている。
まずはドリンクからとメニューを開くと、エドワードはソフトドリンクの欄から「オレンジジュース」を
選択した。
「はぁ?あんた飲みに来たんじゃないの?」
アルコールの欄からどれをと考えていた自分にとっては、出鼻を挫かれたような気分だ。
「ウインリィ・・・あのな、最初からアルコールなんて入れたら身体に悪いだろうが。
多く飲むためにはまず、そうだなグレープフルーツとかがいいらしいぞ」
・・・きっとこれも旦那の受け売りなのだろうが。
アルコールを飲めるような年齢になった頃には、すでに恋人が夫になっていた幼馴染。
お酒の飲み方も旦那に伝授してもらったのだろう。
そして、大層この幼馴染を溺愛しているあの男は、妻が身体を壊さないようにと、
こんな飲み方を教えているらしかった。
それでも極度にすっぱいモノが苦手な彼女は、グレープフルーツではなく、
オレンジジュースを頼んでいるらしい。
結局、最初のドリンクは「オレンジジュース」と「グレープフルーツジュース」という
いかにも健康的な飲み会のスタートとなった。
運ばれてきた料理は個室になっているテーブルの上にどんどん置かれていく。
レンコンのはさみ揚げにチキン南蛮、大根のはりはりサラダは青シソのドレッシングがかかっている。
カキの酒蒸しはぷりぷりとしているし、手羽先ギョーザは香ばしくて美味しそうだ。
ソフトドリンクを飲み干してからは、アルコールも入り、
カシスオレンジに巨峰サワーにジントニック。ミルクが苦手なエドの前でカルアミルクを飲むのはなかなかに面白い。
「リゼンブールの今年の収穫祭はいつごろになるんだ?」とエドがイカリングに齧り付きながら聞いた。
ソースを掛けないのだろうかと思ったが言わずに、桃サワーを飲み干したグラスの氷をカタリと鳴らしながら答える。
「えっと、10月の第2日曜ぐらいらしいわ。まぁ作物の出来によるんでしょうけど」
催し物の少ないリゼンブールが活気付く祭の1つであるから、今年もエドは帰ってくるつもりなのだろう。
旦那さんの都合がつけばいいのになぁとぼんやりと思う。
「・・・・でもあんたがお酒飲んでるのって不思議な感じなのよね・・・」
「はい?なんだよそれ」
今でも10代ですと言えばそのまま通りそうな肌と言えば怒るだろう身長と、伸ばされた金色の髪。
怒って膨らんだ頬までも愛らしさしか感じられない。
それで2児の母親ですと言われるとどうも・・・犯罪の匂いがするのは私だけだろうか。
以外に酒に強いらしく、グラスが空きかけると「何にしようかなぁ」といってメニューを開く。
「まぁ・・・いいことなんだろうけどね」
「おまえ・・・さっきから」
「次はカルアミルクで」と注文すると余計に睨む幼馴染の顔を見る。
いいことだと思う。
5年前やもっと昔。
こんな未来をいつ想像しただろう。
「女同士で」なんてお酒を飲む日のことを。
他愛のない話でひと時を過ごす日のことを。
いつだって時間が無いと走り続けたあの日から、
こんな日が訪れるなんて。
「まぁ飲みましょうってことよ!!」
あんたの為に乾杯しよう。
何度でもいいわ。
祝杯をあげましょう。
星がきれいだからとか。
今日一日がいい日だったからだとか。
運ばれた料理が美味しいだからとか。
そんな簡単な事でいいから。
今日のこの日を祝うために飲みましょう。
・・・・・・余談。・・・・・・・
「はぁ・・・飲んだ〜食べた〜」
「お前・・・飲みすぎ、食べすぎ」
「いいのよ。もとは取らないとね!!」
「店の奴が泣くぞ」
「そんな事より、何で帰る?バスはもう無いだろうし・・・。歩く?」
「あぁ・・・・っと・・・・・いた」
「はい?」
「車で帰るぞ、ウインリィ」
「ちょっと!!車って!!」
エドが走り出した方向を見たウインリィは黒塗りの車を見つける。
このご時世、車を所有しているモノなど極僅。
考えられるのは軍の高官が所有しているくらいなものだ。
「・・・・あぁ、軍の高官ね」
エドがいつ連絡したのか、はたまた連絡しないまでも外で待っていたのか、
その車の持ち主は、飲み屋のすぐそばに車をつけて待っていた。
「愛されちゃってるのねぇ」